劇場公開日 2024年5月10日

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「鬼平犯科帳の本当のテーマとは何でしょうか? 21世紀に持続性のある時代劇とは?」鬼平犯科帳 血闘 あき240さんの映画レビュー(感想・評価)

5.0鬼平犯科帳の本当のテーマとは何でしょうか? 21世紀に持続性のある時代劇とは?

2024年5月12日
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鑑賞方法:映画館

鬼平犯科帳 血闘

令和の鬼平待ってました
原作は言わずと知れた池波正太郎
文庫本は全25巻と別巻1冊、全部で135話あります
1967年から1989年の22年間、「オール讀物」誌に断続的に掲載されました
鬼平ファンには釈迦に説法ですね

映像化は何度もあり、テレビドラマ、映画、舞台、漫画、アニメまであります
果ては江戸の古地図に現在の地図と鬼平の各話のエピソードに登場する地名を重ね合わせて解説する本まで出版されるほど
自分もそれを見てよく散歩したものです

熱烈なファンが多いです
高齢男性キラーのコンテンツですが、近頃はなにやら若い女性ファンもチラホラいるみたいです
本所深川、目黒不動さまなどを散歩していると着物姿の鬼平ファンと思しき女性を見かけることがあります
つまりゴジラに匹敵するキラーコンテンツというわけです
日本の映像コンテンツの宝なのです

テレビドラマ化は令和の配信シリーズを入れると6度目です

八代目松本幸四郎版、丹波哲郎版、萬屋錦之介版、二代目中村吉右衛門版、そして今回の十代目 松本幸四郎版というわけです

今回の配信シリーズの第2話を劇場版として公開されたものが本作という訳です

劇場映画では今回が2度目になります
前回は1995年の中村吉右衛門版の「鬼平犯科帳 劇場版」でした
なのでスクリーンに鬼平が戻って来るのは29年ぶりです

テレビドラマなら平成の中村吉右衛門版が第9シリーズ全138話で終了したのが2001年でしたから、そこから23年も経ちました

その後テレビスペシャルが13編放送されましたが、それも2016年で終了しました

時代劇専門チャネルでの鬼平外伝は5編あります
それも一番最後の「鬼平外伝 最終章 四度目の女房」が2016年でした

そこから8年
長かった、みんな首を長くして待っていました
満を持してのリブートです
2001年に中村吉右衛門の平成テレビドラマシリーズが終了したとき、十代目松本幸四郎はまだ28歳だったのです
その彼も2024年の今年51歳
彼が50歳を越えて、鬼平役に相応しい年格好と風格になるのを本人も周囲も待っていたのだと思います

さて本作
結論からいうと大満足です

でもどうしても大成功した平成の鬼平犯科帳と比較してしまいます
観客はもちろん、主役はもちろん役者達、監督はじめ製作陣までも同様だったと思います

どこまでも平成と同じものを求めてモノマネ作品に止まっていてはつまらない
令和にリメイクするからには何かしら新味が無ければ意味があるといえるのか

そのプレッシャーは恐ろしく大きなものだったと思います

時代劇を21世紀にこれからもずっと作くっていけること
そのためには当然、時代劇を撮る技術の伝承が無ければなりません
でもそれは単に時代劇のセットや衣装、カツラ、小道具、所作、言葉遣い、殺陣
、時代考証などの約束ごとの継承だけで済むことなのでしょうか?
それだけではないと思います
時代劇がこれからも観客に支持され続けるものがなければそれは達成出来ないのです
今風に言えば、持続性のあるコンテンツであるかどうかです
そもそも池波正太郎が江戸時代のノワールを小説にしたのは、同じ事を昭和の現代でそれを目指したのだと思うのです
1967年の一番最初の白黒のテレビドラマでも既に音楽には現代的なギターが付けられていました
それが平成版ではあのジプシー・キングスの「インスピレーション」に発展していったのです

ではどこに令和版の発展の余地があるでしょうか?

鬼平犯科帳の本当のテーマとは何でしょう?
その核心をはずさなければ令和の時代性に合わせた発展の余地が必ず見つかるはずだと思います

江戸時代の犯罪捜査物
そんな表層的なものではこれほど息の長いコンテンツにはなりえません
もっと深いもののはずです
日本人の心の奥深くに響くものです
それは日本人の心です
心の機微、真心です
殺伐さをますばかりの世界
その中で世界の人々が求めるものは悪を憎むと同時に寛容の心を忘れないこと
日本人の心、鬼平の物語はそれを表現しているのです
そしてその日本人の心をつくる日本の風土です
季節の織りなす光景、山川木々花風雨雪
それこそが鬼平犯科帳の真のテーマなのだと思います
料理が取り上げられるのも同様です
料理は平和を象徴しているのだと思います

平成版はその核心を見事に射抜いていたからこそあれほどの成功をみたのだと思うのです
あの平成版のエンディングの春夏秋冬の映像と音楽こそが純度の高い結晶だったと思います
だから古びないし、何度みても見飽きないし感動するのです

今、日本に世界中からインバウンド観光客が押し寄せています
そして彼ら彼女達は何を求めているかというと、その日本の美しい風土、それが育んだ日本人の心、そして土地と気候が産み出した山の幸海の幸、さらに手間暇を惜しまず手をかけた日本の料理なのてす
それはこの鬼平犯科帳のテーマそのものではないでしょうか?
つまり鬼平犯科帳こそは、世界に通じる普遍性と世界中の人たちが求める日本の姿が濃密にあるコンテンツなのです
世界で大ヒットした「SHOGUN 将軍」に
も肩を並べるコンテンツに成長するポテンシャルをもっているはずと思います

令和版は時代劇の技術の継承は大成功を納めていると思います
明るく美しい鮮明な画面の中に本格の時代劇が再現されたと断言できます

日本の風土の美しさ、その風土が産みだす料理の美味しさ
それも忘れずに取り上げられています

ストーリーは原作があり自由はききません
しかし江戸時代も21世紀も変わらない日本人の心を描くのだから、あたら変な改変は不要です
真っ当でよく整理された脚本でした

では完璧かというと、欲をいえばのレベルですが気になる点はあります
言いたいことが色々あります
ここがこう
あの役のあの人はどうと
しかし平成版と同じことを追い求めてはいけないのです
違和感があってもそれも慣れの問題なのかもしれません

私達観客も、製作陣もともに成長して21世紀に持続性のある時代劇を確立させていかなければならないのです

世界展開して成功を収める
それが時代劇が21世紀でも持続していくために求められることだと思います

そのためには令和版にはなにが必要か
まだ不足している要素は何か
そこをさらに追求すれば平成版を追い越す成功も決して夢ではないと思います

海外の人がみたい日本の美しい風土、寺社仏閣は今はVFXでいくらでも実現できるはずです
なにもロケだけに頼ることもないと思います
大昔の監督みたいにあの電柱が邪魔だからどかせろなんて時代ではありません
有名観光地を封鎖して撮影する必要もありません
平成版以上に自由度は遥かに上がっていると思います

その映像に日本人の優しい真心を据えて丁寧に心の動き表現できさえすれば良いはずです
本作はかなり近いところにまで迫っていると思います

ただエンディングが真っ黒のスタッフロールの愛想のなさだけは残念でした

年末にまた鬼平犯科帳の次の劇場版を公開して欲しいものです
年の暮れ、正月こそ本格の時代劇をみたいじゃないですか
それが日本人を形づくることでもあると思います
時代劇に持続性を持たせるためには絶対に必要なことだと思います

待っています
「正月四日の客」みたいに

蛇足
池波正太郎は1923年1月25日生まれ
それで本作の最初に池波正太郎生誕100年企画とロゴマークがでます
十代目松本幸四郎も2023年が50歳
コロナ禍の中で苦労して準備がすすめられたのだと思います
池波正太郎生誕地碑は浅草の大川べりの待乳山聖天さまの石段の脇にあります
また合羽橋の台東区生涯学習センターの1階の図書館の一画に小さいながら池波正太郎記念文庫があります
ファンの方ならとっくにご存知というか訪問済みですね

あき240