「【”悪を知って外道に落ちるか、悪を知って外道を憎むか。それがオメエと俺の違いだ!”今作は鬼平の若き時の因縁に起因した出来事を、鬼平に惚れた3人の哀しく美しい女の生き様を絡めて描いた作品である。】」鬼平犯科帳 血闘 NOBUさんの映画レビュー(感想・評価)
【”悪を知って外道に落ちるか、悪を知って外道を憎むか。それがオメエと俺の違いだ!”今作は鬼平の若き時の因縁に起因した出来事を、鬼平に惚れた3人の哀しく美しい女の生き様を絡めて描いた作品である。】
ー 鬼平犯科帳は30歳の時に、余りの面白さに文庫本全25巻を一気に読んだ記憶がある。
火付盗賊改、長谷川平蔵の悪と対峙する姿と、彼の人柄を慕う多くの登場人物の関係性が
実に面白かったからである。
映画化されると聞いて嬉しかったが、懸念したのはあれだけ多い登場人物をどう描くの
かなと思っていたのだが、杞憂であった。ー
◆感想
・今作の魅力は数々あれど、まずは、娘時代から鬼平(松本幸四郎:若き時は市川染五郎)を慕っていたおまさ(薄幸の女性を演じたらNo1の中村ゆり)と、編切の甚五郎(北村有起哉)の引き込み女のおりん(志田未來)と鬼平が若かった時に彼が惚れていたおろく(松本穂香)の姿が、今作に彩りと哀しみと遣る瀬無さを齎している所である。
ー どの女性も哀しき生い立ちながら、必死に生きて居る。そして鬼平を慕っているのである。-
・鬼平行きつけの軍鶏鍋屋、”五鉄”が出てくるのも嬉しい。
そこには鬼平の密偵の相模の彦十(火野正平)がキチンといて、情報収集基地として機能している。
・一人働きの九平(柄本明)が、”仕事中”に編切の甚五郎一味が急ぎ働き(劇中で、この言葉は出なかったので記載するが、大店から金だけ盗む九平の様な盗みではなく、大店の人達を皆殺しにする手荒い盗みを言う。)の様子を、蔵の天井から見ているシーン。甚五郎一味は殺した大店の主人の指で”おに平”と書いて立ち去るのである。
ー 九平は、編切の甚五郎の”仕事”のやり方を憎み、おまさと協力して、編切の甚五郎の新たなる急ぎ働きの情報を鬼平に伝えるが、火付盗賊が編切の甚五郎を取り逃がした事に立腹する一連の流れや、九平が普段は市井の民として”芋酒”や”芋鞣し”や”芋飯”を供する店を営んでいる時の、別人の様な表情を、柄本明が貫録の演技で魅せるのである。ー
・今作の魅力のもう一つは、京極備前守高久を演じた中井貴一(雲霧仁左衛門かと思った。)柄本明を筆頭とした時代劇のベテランと、上記3人の女性達、中堅、若手と演者の年齢幅が広い所である。私は演者の年齢層に幅があると、作品の幅、深みが増すと思っているからである。
更に言えば、平蔵の妻である久栄を演じた仙道敦子さんの登場は、嬉しかったな。
■今作のラスト、鬼平が編切の甚五郎の仕掛けた罠に引っ掛かり、京極備前守高久行きつけの料理屋での、因縁の血闘シーンは実に見応えがあった。
鬼平一人対編切の甚五郎一味の絶対絶命の中、久栄の願いで鬼平宅を訪れていたおまさが、久栄から鬼平の行き先を聞き、編切の甚五郎の隠れ家で見た押し入り対象の大店の図面を思い出し、“鬼平が危い!”と気付き、火付盗賊改に連絡を取り、鬼平が苦戦する中、火付盗賊改の多数の提灯が闇夜に浮かび出た時の安堵感と、鬼平が編切の甚五郎に言い放った言葉。
”悪を知って外道に落ちるか、悪を知って外道を憎むか。それがオメエと俺の違いだ!”
には、痺れました。
<ラストを観ていると、”火付盗賊改の中に不穏な動きがある。”と言った鬼平の言葉や、柄本時生演じる火付盗賊改の序盤の動きなど見ていると、次作がありそうである。
大いに期待して待ちたいし、改めて日本の優れた剣劇時代劇は世界に誇れるモノであるなあ、と私は思ったのである。>