「私じゃダメ? 私、西村君のこと、ほんと好きなんだけど。」ひらいて 栗太郎さんの映画レビュー(感想・評価)
私じゃダメ? 私、西村君のこと、ほんと好きなんだけど。
恋敵をつぶしにかかる小悪魔感むき出しの、愛。それを憎たらしさ全開にみせない、山田杏奈の演技の妙味。
影が薄いのに存在感がある、たとえ。その訳はのちに知るのだが、彼のまっすぐでブレないキャラが、物語の全体像に一本の筋を通している。
暗くて地味な、美雪。たしかに愛だったらたとえを横取りしたくなるほどの弱々しい存在。
こういう、恋人のいる男に横恋慕する話はごまんとある。ただ、奪う側を主人公にする視点がどこか新鮮だった。たとえに脈がないと悟れば作戦を変えるしつこさ。美雪が「好き」を勘違いしたときの、切り替えの速さ。暴力的で、独善的で、陰湿で。ずっと、厭味ったらしいままなら凡庸な話なんだが、メンタル強そうだった愛の感情や行動がどんどんブレる。愛はどうなっていくんだろう?と心配しだした頃から、いつの間にか、愛の感情に入り込んでしまっている。けして褒められた恋愛ではないのに、どの場面かで、つい涙腺が緩んでしまったくらいだ。それは愛の歪んだ愛情が、一途に見えてしまったからなのだろうか。たとえも、美雪も、それぞれの立場で愛を受け入れてしまったように見えるからだろうか。
そして最後に。ようやく愛自身が心を、ひらく。愛の奔放な行動は、けして歳に似合わない打算や泥臭さではなく、歳相応の純真さに思えてしまった。
エンドロールで改めて思い出した。なるほどこれは、綿矢りさだったっけ、と。
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