「もったいないエンドロール」ひらいて わたろーさんの映画レビュー(感想・評価)
もったいないエンドロール
個人的には昨年の「朝が来る」と同じ枠。今年もここで見つけてしまったか…という感じ。エンドロールで全て台無しの作品でした。
映画自体は凄く面白い。ひらいてというタイトルと逆に閉じた手、閉じた心、他人に対して思いやりを持てない主人公、その整理された脚本・演出は原作の力もあるかもしれませんが、首藤監督の手腕も大きいと思います。モノローグに頼りすぎないのがいい。
愛と美雪の関わるときの構図がすごく面白くて。初めて出会ったときは美雪が糖尿病で倒れている、それを上から支える愛。身長だけでいうと山田杏奈のほうが小さいけど、その後も関わるときには山田杏奈が立ち位置が上になるような画作りがなされている。橋のシーンでは、下りを使って視線を並行になるようにさせておいて、ラストカットでは初めて愛が美雪に対して上目遣いになる構図を形成する。これが本当に素晴らしかった。
ジュースを口移しする衝撃的な序盤のシーンなんですけど、そこでは愛は美雪に思いやりを持ってるわけで。その後の残ったジュースの扱い方と、映画中盤に出てくる炭酸ジュースの扱い方を対比すると、愛の心理が見えてくる。
カラオケシーンも最高。片手でマイクを握るのか、両手でマイクを握るのか。選曲。声量。歌っているときの振る舞い。二人の違いが明確になっている。
性描写も必要な範疇だったけど、「猿楽町で会いましょう」「うみべの女の子」のほうが上手だったかな。そっちはR-15ですけども。
結局愛ってなんだろうと思わされる。加害欲なのかもしれないし、破壊欲なのかもしれないし、独占欲なのかもしれない。山田杏奈演じる愛は論理からいうと破綻してる行動を何度もとるんだけど、だからと言って嫌いになれないのは、自分にも近しい感情を感じたことがあるのかもしれない。認めたくないけれども。
「貧しい笑顔だね」というセリフに対して説得力を持たせる山田杏奈の演技が本当に素晴らしい。
「たとえ」という名前の意味。
ラストシーンでなぜこのセリフを言えたのかを考えたくなるわけで。初めて愛が脆さとか弱さを認めたような、自己本位のように見えて美雪のことも思っているような、余韻を楽しみたくなるセリフ、言い方をしているのに、それを台無しにするエンディングテーマ(曲自体を否定しているわけではない)。せっかく脆さを見せて終わったのに、ガチャガチャ強がっているような歌い方、歌詞であるのが本当にもったいない。このエンディングテーマを使うのであれば、ラストシーンの前にエンドロールを入れて、最後に補足としてあのカットを加えたほうが鑑賞後の余韻を楽しめると思いました。