劇場公開日 2021年2月19日

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「日本では余り問題提起されることは少ないが大切なこと。でも難易度は高め(補足いれてます)」愛と闇の物語 yukispicaさんの映画レビュー(感想・評価)

4.5日本では余り問題提起されることは少ないが大切なこと。でも難易度は高め(補足いれてます)

2021年2月22日
PCから投稿

今年37本目(合計104本目)。

 比較的低評価が多いですが、この映画自体、かなりの前提知識を要求する部分があり、その点を理解しないと何がなんだかわからない展開が続くことが原因かな…と思います。
なので、まずこの前提知識の補足から。

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 ▼ 監督について
 ナタリー・ポートマンはイスラエル出身。

 ▼ 史実について
 1915年:フセイン=マクマホン協定 → オスマン帝国(当時)からの独立(アラブ反乱)を目指すアラブ人は、イギリスはこれを応援した。
 1916年:サイクス・ピコ協定 → イギリスは、フランス・ロシア(当時)とアラブ地域の3国での分割統治を決めていたが、そこにはフセイン・マクマホン協定と矛盾する内容が含まれていた。
 1917年:バルフォア宣言 → パレスチナに当該地区にユダヤ人の国家を建設することを認める宣言を発出するも、このことを快く思わなかったロシアに暴露され撤回。しかし、今度はイギリスはロシアが邪魔になったので、ロシア抜きでで分割統治を決めるセーヴル条約を勝手に結ぶ(1920年)。

  → この時点でどれもこれもが矛盾しており、ここでどれをとっても破綻が発生。このイギリスの無茶苦茶ぶりは「二枚舌外交」「三枚舌外交」と強く非難された。

 1947年:パレスチナ分割決議 → これは映画の内容通り。ユダヤ人を自国から追い出すという口実でアメリカ(トルーマン大統領が熱心に賛成していた)やロシアが賛成に回るも、アラブ諸国は猛反発。モメにモメまくって無関係な国は棄権。イギリスは当時、もうすでにこの問題で、どの国からも「いい加減にしろ」という風潮だったので棄権(史実通り。映画内でも描かれている)。これでまた問題が勃発する。

 1948年~現在まで:第一次中東戦争などが勃発。今でもこの問題は収まっていない。

 ※ なお、1916年のサイクス・ピコ協定は、もっぱら西洋諸国(ロシアは微妙ですが…)だけで取り決めたものだとして無効だと主張して、間接的にイスラム国(ISIL)の問題を巻き起こした。

 ※ イスラエルを抱える問題で、国境が不可思議な線引きになっているところがあるのは、こうした矛盾する条約・宣言で作られた妥協の産物。

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 この映画は、こうした内容を把握していないと理解が非常に難しいです(字幕ではまったく出てこない)。今でも確かにこの問題は問題提起されますが、元はといえば上記のような複雑な事情があり(しかも、サイクス・ピコ協定はイスラム国「建国」の根拠として主張されたほどだった)、かなり複雑な理解を必要とします。

 いわば「文系版「エジソンズ・ゲーム」」のような様相で(そういえば、3月に「テスラ」も放映されるようです)、このあたりの知識の有無が理解を9割以上(といっても正直過言ではない)左右します(高校世界史の教科書ではここまで扱わない)。

 内容は、完全な史実に基づくものではないようですが、主要な登場人物は実在する人物で(ただ、その説明も映画内にはなく、史実に着想を得たのか完全フィクションなのかわかりづらい)、この点も理解が必要でしょう(ただし、ググれば理解ができます)。

 正直なところ、この辺の知識の有無がこの映画の評価をかなり(★3.0程度以上に)左右するのですが、字幕が少なく、ちょっと…とは思いました。とはいえ、歴史上の問題提起の映画の中でも、この問題を扱った映画はやはり少なく、その点は「公開されたことに意味がある」と考えました。

 感想というより、今後見に行かれる方の理解になれば幸いです。

 なお、加点減点は下記の通りで4.5としています。

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 (減点0.4) 正直、日本の公開にあたってこうした部分の説明が字幕で皆無であり(まったく存在しない)、前提知識がないとまるで不明な映画になってしまっています。ただ、日本の高校世界史の事情でそこまで扱えない(どうしても近現代史は授業のコマ数の関係で駆け足にならざるを得ない)ことと、誰も話していないことを勝手にあれこれ付け加えるのもどうか…とは思い、この程度にしています(ただ、字幕で独立してある程度説明するなり、入場時特典パンフレット等などは配るべきだったのでは…とは思います)。

 (減点0.1) 上記のように、イギリスが大きくかかわってくる映画ですが、「現地の(多くの混在した言語よりも、ひとつの)英語」として、英語教育を推進しているところがあります。ここでの英語はイギリス英語です。ここで、

 I do. 私はする。
 I did 私はした。
  …
 I should have …

 …ということを「五十音的に」学習するシーンがありますが、 I should have (仮定法過去完了)に「私はするべきだった」と解説しているところがあるのですが、それ自体は間違っていなくても、この表現は暗に「実際にはしなかったことを後悔する」表現です(つまり、実際にしなかったことを示唆する)。
この部分は日本の字幕では説明がなく、一定の文法力がないとハマリが生じかねない点であり(中高の英語で触れないだけで、この点は結構複雑な議論を含む)、字幕に工夫があってしかるべきかな、とは思いました。
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yukispica