劇場公開日 2021年3月20日

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「水切りのシーンがすごすぎる」AGANAI 地下鉄サリン事件と私 杉本穂高さんの映画レビュー(感想・評価)

5.0水切りのシーンがすごすぎる

2021年3月31日
PCから投稿

これはすごい作品だ。地下鉄サリン事件被害者である監督が、アレフの広報、荒木氏と自分たちのルーツである故郷に向けて2人旅をするのだが、そこには加害者と被害者の対立軸を置いては語り得ない関係性が生まれている。
さかはら監督は、まるで友人のようにフランクに荒木氏に接する。荒木氏の方は距離感を測りかねているように見える。しかし、監督は時折鋭く事件とその清算について言及する。荒木氏の心はいまだなにかに捕われているように見える。彼の心を閉じ込めている何かを監督は開けようと試みる。
川で石を投げて水切りで遊ぶシーンは名シーンだ。大人が2人、水切りで喜んでいる。あのシーンでは確かに2人は友人に見える。このシーンの荒木氏はとても無邪気な笑顔を見せている。ずっとガードの硬そうな申告な顔をしている彼も、この時だけは無防備に見える。あの一瞬をカメラに収めたことが本作を傑作にしていると思う。

杉本穂高