「パンデミックの最中に作られた久々の2人芝居に圧倒される」マルコム&マリー 清藤秀人さんの映画レビュー(感想・評価)
パンデミックの最中に作られた久々の2人芝居に圧倒される
自作のプレミアに出席した映画監督とその恋人が、帰宅後、作品にまつわる論争になり、やがて、意外な事実を赤裸々に暴露し合うことになる。監督の葛藤、メディアとの関係、人種問題、俳優としての性、怒りと許容。。。久しぶりに作られた2人芝居である。始まりは、Z世代の現実を描いたHBO制作のドラマ『ユーフォリア/EUPHORIA』の監督、サム・レヴィンソン(オスカー監督バリー・レヴィンソンの息子)が主演女優のゼンデイヤ(これでエミー賞を獲得)に新作のアイディアを打診したこと。幾つかの候補から選ばれたのが『マルコム&マリー』だったというわけだ。だから当然、作品はゼンデイヤの演技力を全面的にフィーチャーしたものになっている。しかし、これが物凄い迫力で、パートナーを執拗に問い詰めた挙句、禁じ手とも言える手段を行使するシーンなどは、古い映画だが、同じ2人芝居の傑作『探偵スルース』(72)でのマイケル・ケインにも匹敵するどんでん返し的大熱演である。その分、監督役のジョン・デビッド・ワシントンは終始受けに回っているが、こっちも、持ち前のお人好しキャラをしっかり有効利用している。2人はプロデュースも兼任していて、撮影はパンデミック真っ只中の昨夏、厳しい感染対策の下、かつてクリント・イーストウッドが市長を務めたことがあるモントレーのカーメルで行われた。ヘアメイクと衣装担当がいなかったので、ゼンデイヤとワシントンは私物を持ち込んだという。多くのプロジェクトが停止するか先送りになる中、若い映画人が果敢にチャレンジしたコロナ禍を象徴する作品である。
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