劇場公開日 2021年9月17日

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「近未来を舞台にした正統派ハードボイルド」レミニセンス REXさんの映画レビュー(感想・評価)

3.5近未来を舞台にした正統派ハードボイルド

2021年10月19日
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鑑賞方法:映画館

メメント、インセプションに続き、記憶は人を幸せにするのか?という問いに、ノーラン(弟)が一つの解へと導く。
「記憶が人を幸せにするのなら、過去に生きてもいいのではないか?」と。
今まであまたのSF作品では、過去に囚われることはペシミストの特徴であり、発展性がなく精神的に良い状態としては描かれなかった。
だがこの映画は、記憶が最良の時間を与えるのならそれを選択してもよいのでは、と優しく手を差し伸べる。まさに、その状態は劇中で語られる「バッドエンドになる手前の、幸せのまま終わる物語」そのものだ。

だがしかし、私だったらワッツの生き方を選ぶと思う。他人や世界との関わりで、どんな出会いが待ち受けているかわからないし、どんなに良い記憶でも飽きると思うから。

装置に入っている間は、それがフェイクであると自己認識できるのだろうか?
認識できるのなら目覚めたときは苦痛だし、認識できないのなら現実と区別ができなくなり、発狂しそうだ。

サスペンスではあるものの、これは紛うことなく愛の映画であり、観客を記憶の謎に置き去りにすることはない。
愛する女性の影を追いつつ語られる男の独白、フィルムノワール風の上質な雰囲気に酔いしれられる。
特に、他人の記憶で互いを想いあうシーンは極上の切なさ。

水面が上昇した湿っぽい街の描写は、新しい世紀末感を確立したといえるかもしれない。退廃的であるものの、泡沫の夢のように儚く美しい。

しかしレベッカ・ファーガソンは銀幕上であと何人の男をたぶらかせれば気が済むのだろうか?
少し老けたタンディ・ニュートン姉さんも恋心を抑える渋みのある演技で素敵。
そういえば、二人とも過去作でミッション・インポッシブルのヒロインでした。

REX