「全ての欠点を吹き飛ばすワンシーン」レミニセンス HALさんの映画レビュー(感想・評価)
全ての欠点を吹き飛ばすワンシーン
正直、欠点は結構あります。まず、水没した世界観を映像に活かせていない。ノーラン系列ということで期待するような衝撃的な映像体験はあまりこの映画にはありません。
また、主人公の心の声?による語りがかなり鬱陶しいです。設定の説明や場面転換などもこの語りに頼っているので、あまり良い演出とは言えないと思います。一応後に伏線としての理由付けはなされるのですが、それを差し引いてもウーンといった感じ。
いくつか欠点について語りましたが、僕はこの映画が好きで、観て良かったと思っています。それは、とあるワンシーンがこれらの欠点を完全に帳消しにしてお釣りが来るほどに良かったからです。
それは、主人公のニックが、ずっと探し求めていたヒロインのメイと記憶越しの再会を果たすシーン。メイは敵のブースによって自分が殺されるのを悟っており、後にニックがブースの記憶を観ることに賭けてなけなしのメッセージをブースの記憶に残します。ニックがその記憶からメッセージを受けとるシーンは、本来であれば現在から過去への、あるいは過去から現在への一方通行のコミュニケーションでしかないはずです。しかし、ニックとメイの想いが記憶のディスプレイで重なりあった結果、そこに一瞬だけ、限りなく心の通じた双方向に近いつながりが生じます。その一瞬の繋がりは息をのむ程に美しく、そして一瞬であるが故に心に耐え難い悲しみを残します。
ここは恐らく監督も一番力を入れたであろうシーンであり、全体を通したストーリー、演出の全てがこの一瞬のために存在していると言っても過言ではありません。この作品のテーマである「記憶」は、話を小難しくするためでも、観客に頭を使わせるためでもなく、このシーンを描くためだったと考えると、かなり全体のストーリーに納得がいきます。