「二人の主演女優たちが興味深い化学反応を魅せる」オートクチュール 牛津厚信さんの映画レビュー(感想・評価)
二人の主演女優たちが興味深い化学反応を魅せる
この映画は、引退を間近に控えたベテランお針子の朝から始まる。起き抜けに甘いもので血糖値を上げて、職場へと向かう。そのルーティーンには孤独こそ漂うが、彼女がいざ現場に足を踏み入れると映画の空気もガラリと変わる。そこは経験と才能がものをいうプロフェッショナルの世界。ナタリー・バイの相貌には腕一本で生き抜いてきたプライドがみなぎり、またそんな主人公がだからこそ、引退を前に思わぬ行動に打って出るところが面白い。それはひょんなことで出会った少女に機会を与えること。おそらく彼女は自分が授ける側だと思っていたのだろうが、しかし物語はむしろ双方がお互いにチャンスや影響を与え合っていく様を描く。衝突も多い。が、二人の女優のじっくりと魅せる演技が観客を内面へと引き込んでいく。言い訳や罵り合いがいつしか実直な行動となって、指先の技術や集中力へと昇華されていく姿は、定番の描写とはいえ、成長物語として見応えがある。
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