劇場公開日 2021年4月2日

  • 予告編を見る

「DVから逃れ貧困に喘ぐ母親の決意を見守りながら、容赦ない社会の非情さからも目を逸らさない凛とした人間ドラマ」サンドラの小さな家 よねさんの映画レビュー(感想・評価)

5.0DVから逃れ貧困に喘ぐ母親の決意を見守りながら、容赦ない社会の非情さからも目を逸らさない凛とした人間ドラマ

2021年4月7日
iPhoneアプリから投稿
鑑賞方法:映画館

台はアイルランドのダブリン。夫ガリーによる暴力に耐え切れず二人の娘を連れて別居したサンドラ。市の福祉制度は脆弱であてがわれた郊外のホテル住まいは職場からも遠く、住宅を借りようにも民間のアパートはボロいのに高家賃、公営住宅に申し込もうとしても内覧すら長蛇の列。そんな中サンドラは低予算で自分で家を建てるというアイデアを思いつき、彼女がハウスメイドを務めている家の家主ペギーや、DIYショップで知り合った大工のエイドといった友人達の援助を受けて週末にコツコツと建設作業を進めるが、サンドラを見つめる世間の目は冷たく様々な妨害に晒される。

温かみのある感じの邦題に騙されましたが、これはかなり辛辣な人間ドラマ。『家族を想うとき』にも通底する容赦ない貧困に健気に立ち向かう親子と彼女達を支援する人々の絆を優しく見つめながらも、親権を守るためにはDVに耐えたことすらデメリットになってしまう絶望的な状況や痛々しいDVそのものも容赦なく描いているので、終始曇天のダブリンの街に微かに灯る希望の灯が鮮明に映えます。アイルランド映画なので著名なキャストは一人もいませんが、短い尺の中でそれぞれが印象的な演技をさりげなく披露していて、地に足のついた演出が深い余韻を残す印象的な作品となっています。

よね