「小さな物語だが、大きく胸を打つ」サンドラの小さな家 牛津厚信さんの映画レビュー(感想・評価)
小さな物語だが、大きく胸を打つ
映画では様々なメタファーが物語に深みをもたらす。建築物はその最たるもので、ただ何気なく映し出されるだけでも如実な心理投影となりうる。翻って本作は、まさにこの手法を真正面に据えた、力強い秀作だ。住む家をなくし崖っぷちに立たされた時、人は一体どうするか。きっとケン・ローチやマイク・リーの映画ならじっと耐え忍ぶ姿を描くことで問題提起を図り、ほかの作り手なら主人公の個性や才能で突破口を空けようとするはず。その点、本作のヒロインの才能は「ならば自分で家を建てよう」というコペルニクス的発想と、”素直に誰かに頼れる”ことに尽きる。我を張らず助けを求め、最良の仲間を一人、また一人と増やしていく。そうやって心と暮らしをもういちど再構築する様が、濁りなくストレートに胸打つ。個人戦から集団戦へと気分を高揚させる巧さはフィリダ・ロイドの面目躍如。原題"herself"と浮かび上がる瞬間の感性といい、鳥肌が立った。
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