劇場公開日 2021年4月23日

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「不思議な同胞感」ブックセラーズ pipiさんの映画レビュー(感想・評価)

3.5不思議な同胞感

2021年5月29日
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鑑賞方法:映画館

楽しい

興奮

知的

普段と同じシアターなのに、この日は何か違う感じがした。
この空間に集った人々は皆「同好の士」なのだ、という不思議な安心感。
実は今、このレビューをしたためながらも同じ感覚を味わっている。
本作のレビューをUPなさった方は皆、本をこよなく愛する人々に違いない。

最近は映画館で笑う声も久しく聞かないが、本作では溢れ落ちる笑いを無理に抑え込む必要がなかった。
同じシーンで皆が自然に穏やかな笑い声を漏らす。不思議な仲間意識。
優しい時間が、空間を満たしていた。

「図書館」「理科室」「プラネタリウム」
小学生の頃から今でも変わらず、私が最もリラックスして寛げると感じる場所だ。(いつか未来に「映画館」も加わるかもしれないが。理科室は暗室付きの準備室があれば尚良い)

定期的に「図書館が家ならいいのにな」と夢想する時がある。
本作に出てきたコネチカット州リッジフィールドのジェイ・ウォーカー人類創造史図書館は理想的だと思った。
(例のエッシャー風のあれwww)

それにしても「活字離れ」は世界的現象なのだなぁ。近年、映画翻訳者さん達を悩ませるのは1度に表示される字幕文字数が減った事だと聞く。
20〜30年前と同じ文字数では、表示時間内に追い切れず映像について来られなくなる鑑賞者が増えたからだ。
識字速度と書籍慣れに密接な関係がある事は言うまでもない。

現在「紙の本」に「本ぐらいしか娯楽がなかった時代」と同等の需要は無い。
私も個人的には電子書籍に抵抗感を抱いていたのだが、仕事の必要に迫られてkindle unlimitedを入れてしまった〜。
屈したようで情け無いが、使ってみると確かに便利だ。
手元に残しておくほどでもない本ならば、これで充分だ。
(一度入手した本は手放したくない悪癖があるので、本の増殖を制限する効果もある)

しかし、電子データは記録媒体としてはかなり頼りない。ちょっとした事で壊れたり取り出せなくなったりする。
何より、味わいが薄い。
本が「盛り付けられた料理」ならば、電子書籍は同等の栄養価をもつ「丸薬」だ。
ウェブの世界では、検索に引っかかる全ての情報は丸裸にされる。
反面、引っかからない情報は、存在自体無かった事にされる。
「紙の本」は、見つかった時も、見つからなかった時も、どこかに秘密を隠している。だから、ワクワクするのだ。美しくて楽しいのだ。
本当に大切な事は目に見えないものなのだから・・・。

インターネット普及前を知る世代には「本の良さ」と「ウェブの良さ」を偏見抜きに比較し、それぞれの利点を活かす使い分けを明確にする使命があると思う。生まれた時からネットがあった世代には感覚的に理解し得ないものを、我々は理解出来るはずだ。残された時間はあまり長くは無い。

紙の本、ガソリン自動車、光学カメラ、、、
一つの時代が確実に終わろうとしている。
しかし、本の命は生き続けるだろう。
秘密を隠している限り・・・。

追記:
本作中を通して、ブックセラーズ達とは違った視点でスパイス効いたコメントを挟んでくれたフラン・レボウィッツ。(エンドロール後も笑わせてくれました)若い頃は凄い美人だったのだなぁ!彼女の若い頃を留める紙の著作、改めて読んでみようと思った。

pipi
NOBUさんのコメント
2022年1月30日

おはようございます。
 多数、共感頂き有難うございます。
 今日は、本を読もうと思っていたのですが、ノンビリとビリー・アイリッシュと、スティングと、フラリッポ・リッピを聞きながら、車を一時間ほど走らせて、”香川一区”まで行くことにしました。
 おうどんあるかなあ・・。(ある訳ない!)
 寒き日が続きますが、御身体ご自愛下さいね。
 pipiさんの体調の良き日が続きますように、三河の地から祈念しています。
 あの該博な知識に裏付けされた切れ味鋭きレビューを、いつか拝読できる日を待っていますよ。では、又。

NOBU
NOBUさんのコメント
2021年5月29日

今晩は
 投稿100作、おめでとうございます。
 私が書いたドキュメンタリー映画は長いので、お時間のある時に・・。
 そういえば、親しくさせていただいているレビュアーの方から、”pipiさんとばかり、コメントをしてはいけません!と叱られたなあ・・”
 けれど、それだけ魅力的なレビューなのですよ。

NOBU
NOBUさんのコメント
2021年5月29日

おはようございます。
 市内の残り少ない、けれど大きな本屋に一度入ると”クラクラ”してしまって、2Hは店内をうろつくNOBUです。
 pipiさんのレビューは、詩的で、知的で、好きですね。
 今作を鑑賞した際には、”寝息が聞こえてきたら、嫌だなあ・・、起こしに行かなきゃいけない・・”と思っていたのですが、杞憂でしたね。
 「ニューヨーク公共図書館 エクス・リブリス」はご覧になりましたか?

NOBU