「黒薔薇の花言葉は「永遠の愛」「憎悪」」お隣さんはヒトラー? うぐいすさんの映画レビュー(感想・評価)
黒薔薇の花言葉は「永遠の愛」「憎悪」
謎めいた隣人・ヘルツォークの登場を機にホロコースト生存者・ポルスキーが突入する、ナチハンターかくやの執念に満ちた追跡の日々を描いた作品。
コメディタッチで進む物語ではあるのだが、イスラエル発の作品かつ主人公の背景が背景だけに、笑いを狙ったシーンで笑っても良いのか判断に困った。
また、劇中のヘルツォークとポルスキーの関係の顛末、東欧に住んでいた時代のポルスキーと『良き市民』であろうとした隣人の関係の破綻を思うと、安易に「出会い方や生まれた場所さえ違っていれば…」とは言い切れない苦味を感じた。
作り手の意図と受け手である自分の間で歴史観や道義心に由来する温度差が生じる体験は、映画『オッペンハイマー』を観た時の感覚を思い出した。ノーラン監督が日本向けに語ったインタビューと『オッペンハイマー』本編との間で感じた温度差に、自分は敗戦国と戦勝国の戦後感の違いを感じ、本作でもそれと再会した。
ポルスキーが一線を越えたなりふり構わない捜索方法をとる点やヘルツォークの正体と彼の行く末として設定されたものを見るに、一度でもあちら側にいた者には重い枷も止む無し、という前提があるのだろう。
大味なコメディ風味で始まった物語ではあるが、失ったものが戻りはしないこと・行ったことが取り消せはしない人生のシビアさをきっちりと示し、メインの二人が背負ってきた痛みや業を簡単に払うことなく〆る渋い物語だった。
とはいえ、痛みや業を背負った人生であっても、生きていてこその出会いや刺激である。この短い奇妙な交わりが、ポルスキーとヘルツォークの中でネガティブなだけの思い出としては残って欲しくないと感じた。
花言葉には諸説あり、国や地域によっても異なります。