「1キロのバターと3人の巡礼者」ボブという名の猫2 幸せのギフト Gustavさんの映画レビュー(感想・評価)
1キロのバターと3人の巡礼者
迷い込んだ野良猫と深い絆で結ばれたストリート・ミュージシャンが、ふたりの自叙伝を出版するまでの更生物語「ボブという名の猫 幸せのハイタッチ」は、心温まる佳作だった。麻薬や貧困の問題を抱えたロンドンで荒んだ生活から抜け出すジェームズ・ボーウェンとボブと名付けられた猫の偶然のつながりは、人間同士の関係では生まれない結びつきを感じさせて感動的でもあり、生きることの意味を改めて考えさせてくれた。そのデビュー作の好評後に出版社から依頼された続編の構想に迷っていたボーウェンが、ひとりのホームレスの青年と出会い、最も苦しかった時のクリスマスを回顧する第二作。脚本は(ボブが遺してくれた最高のギフト)と(ボブが教えてくれたこと)の二つの原作から創作されて、前作との違いは、ボブとボーウェンの物語から、ふたりの関係を温かく見守る周りの善意の人々のお話がメインになっている。そこで登場するのが、飼われている動物が適正に生きられているかをチェック指導する動物福祉局の存在になる。その指導員の動物に対する保護活動は、ひょっとしたら人間よりも大事にされているのではないかと思える程きめ細かい。近年の環境問題や人権問題から派生した動物愛護の社会的責任に、世間から批判を受けないよう気を使っている側面も見受けられ興味深かった。ふたりを擁護する市民と動物福祉局がSNS上で情報をやり取りするところは、今の時代を的確に反映している。監督は、何とあのジョージ・ルーカスの名作「アメリカン・グラフィティ」で印象に残る好演を見せたチャールズ・マーティン・スミス。共演のロニー・ハワードが「遥かなる大地へ」「アポロ13」「身代金」などの名匠ロン・ハワードなのは勿論承知していたが、彼がスミス監督になってテレビドラマの演出家で活躍していたと分かって、この作品で一番驚いてしまった。ベテラン演出家の実績を買われて、このイギリス映画の監督を依頼されたのであろうが、とても標準的な演出技巧の素直なタッチだった。よく言えば癖が無く、悪くいえば個性がない。前作のロジャー・スポティスウッドと比較して、演出のリズムが弱く一本調子なのが惜しい。素直な演出が欠点として現れたのが、ボブが動物福祉局に引き取られてしまう不安を表現した幻想シーン。テレビドラマでは普通でも、映画の演出としては凡庸と言わざるを得ない。ただし脚本と併せての良さは、悪戯書きと見せかけて最後ふたりを讃える絵を見せる演出に涙腺を刺激されたことと、敵対する動物福祉局の男性指導員に最後1000アルバニア・レクの紙幣を手渡しボーウェンなりのお返しをするところは可笑しかった。
慈善団体が盗難に遭いながらボーウェンの身に寄り添い優しく助言するボランティアの女性ビーの人物背景があって、近所で雑貨店を経営するムーディーの含蓄ある例え話が生かされている。バター1キロの身から出た錆の教訓話、三人の巡礼者から得る“過去を未来の重しにするな”は、分かり易くどんな人にも伝えたくなるお話だ。劇中のホームレスの青年を生き返らせたボーウェンは、ボブとの絆から人間同士の絆を繋げる大人に成長して、本来持っていた文才を活かし生きる術を身に付けていく。映画の創りは普通でも、ディケンズの「クリスマス・キャロル」の逆バージョンを思わせるイギリスらしいクリスマス映画に仕上がっています。自分のロウソクに炎を灯したくなる作品です。