「見えないなにかを映すドキュメンタリー」二重のまち 交代地のうたを編む 杉本穂高さんの映画レビュー(感想・評価)
見えないなにかを映すドキュメンタリー
全国からやってきた4人の若者が、かつて震災と津波に襲われた街で、あるプロジェクトに参加する。彼らは、被災の歴史を体験していない。すでに町は(表向きは)綺麗になっている。かつて震災で破壊されたなどとは全く思えないほどに。しかし、震災の記憶は人々の中に確実に残っており、その記憶はこの街のコミュニティにとって重要なもの、部外者の若者がいかにその人々の言葉に触れ、変わっていくのかを、カメラが克明に記録する。
自分たちに語れることなどあるのかと4人は逡巡し続ける。カメラの前での沈黙もまた雄弁なのだと気づかされる。「二重のまち」とは、津波被害にあったこの街は、津波対策で土地をかさ上げしたことによる。表向きは復興したが、自分たちの故郷を埋めてしまったのではないか、という感覚がこの街の住民にはあるのだ。被災の痕跡も埋まっているのだ、という見えない足元に対する感性をこのドキュメンタリー映画は、確かに映している。大げさにいうと、この映画は見えない何かを映すことに成功しているとすら言える。すごい映画だ。
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