「「個人蔵」という世界」レンブラントは誰の手に Imperatorさんの映画レビュー(感想・評価)
「個人蔵」という世界
ヤン・シックス11世が発見した問題の肖像画は、果たして、良い絵だろうか?
レンブラントにしては、顔がのっぺりしているし、ポーズのおさまりも悪い。
ただし、比較的若い頃の作品で、かつ、大きな絵の一部が切り取られたためだと考えれば、レンブラント作として違和感はない。
13万7000ユーロは、レンブラントとしては格安だ。
映画のメインテーマは、この肖像画をめぐるスリル満点の“真贋”の話かと思っていたら、途中からはそうではなくなった。
「Rembrandt: The Painter at Work」などの著作のある、レンブラント研究の権威デ・ウェテリンク教授が、初見では否定的であったが、最後は“真作で傑作だ”と断定したからだ。
「このレベルの人でも、ずいぶん主観的な判断を下すなあ」と自分はあきれてしまうのだが、年代測定や透視画像や元素分析など、科学分析ツールがそろっている今日でも、しょせんはその程度なのだろう。
そしてその結果、画商仲間のあいだの諍いという、実に卑俗で退屈な話に映画のテーマが変化する。
また、3~4つの無関係なテーマが、入れ替わり立ち替わり現れるのも分かりづらい。
別々に章立てして語られるべき内容ばかりで、なぜゴチャゴチャにしたのか、理解できない。
とはいえ、ただ一点だけ、共通点がある。「個人蔵」の世界という点である。
英題「私のレンブラント」は映画の本質を語っており、邦題の酷さは腹立たしい。
この映画を観た自分にとっての収穫は、
・デ・ウェテリンク教授の人となりが分かったこと
・(有名な銅版画の)窓辺で読書する男がヤン・シックスの先祖で、「オランダ黄金時代」が少し身近に感じられたこと
そして、
・「個人蔵」とひとくくりされる世界の、“多様性”が垣間見えたこと
であった。
あとは、オランダ人が「フランス人のケンカ好きはDNA」と怒るエピソードや、物質主義を嫌悪していた男が「レンブラントを買い占めたい」と思うほどコレクションに取り憑かれてしまったエピソードは面白かった。
とりあえず観て良かったと思うものの、たいしたドキュメンタリー映画とは言えない。