「カスカベ防衛隊の友情はスーパーエリートだゾ!」映画クレヨンしんちゃん 謎メキ!花の天カス学園 近大さんの映画レビュー(感想・評価)
カスカベ防衛隊の友情はスーパーエリートだゾ!
映画クレヨンしんちゃん29作目。
毎回毎回ユニークな題材やジャンルの映画クレヨンしんちゃん。
今回は予告編を見た時から面白そうと思った。
クレヨンしんちゃんで“青春×学園ミステリー”!
こりゃまた面白いところを持ってきた、と。
で、実際に見てみたら、安心安定の面白さ! 近年の映画クレヨンしんちゃんMY BESTは『ユメミーワールド』なのだが、それに次ぐくらい。
話そのものやしっかりとしたテーマ/メッセージ性が良かった。
風間くんの誘いで、全寮制の名門校“私立天下統一カスカベ学園(通称“天カス学園”)”に一週間体験入学する事になったしんのすけたち。
エリートを育て、エリートだらけの学園。
エリート街道を目指す風間くんにとっては憧れの場所。将来、絶対この学園に…!
全教科1位の超天才、見た目はギャルだが多くのコンクールの優勝者、人間嫌いだが自然と動物好きの野生児、マラソンの花形選手の生徒会長…それぞれの分野を活かした個性的なエリート面々。
その一方、学園にはエリートだけじゃなく“落第生”も。
素行の悪い不良たち、落ちぶれ生徒、彼らの兄貴分存在の33代目鉄仮面不良番長…。
実は、しんのすけたちの案内役の生徒会長チシオもこちら側。正確にはマラソンの“元”花形選手で、ある理由から走れなくなってから落ちこぼれに。(“生徒会長”は建前で実際は雑用係)
この天カス学園では、優秀な行い、成績、実績を見せれば、“エリートポイント”が溜まり、エリートたちの“天組”に。待遇も食事も豪華。
が、素行の悪さ、校則違反、ちょっとした喧嘩やいざこざ、間違いをしただけでも、“ノーエリート!”。ポイント減点。ポイント低い者やポイントマイナス者は“カス組”。待遇は勿論、食事も焼きそばパンやパンの耳…。
校内ヒエラルキー激しい天カス学園。
体験入学でもポイント稼げば、特待生として入学も夢ではない。
張り切ってエリートポイントを稼ぐ風間くん。
が、案の定、しんのすけが足を引っ張る。
ある時しんのすけと騒ぎを起こしてしまい、ポイント大幅減点。風間くんにとっては死活問題!
怒り心頭、もういい加減うんざり!
僕はエリート、お前は落ちこぼれ。
口喧嘩の末、風間くんはしんのすけに絶交を言い渡す…。
この学園生活や校則だけでも、今回のテーマやメッセージは明確。
エリートでいれば、人生薔薇色なのか…?
確かにエリートでいれば、学園生活も社会に出てもその後の人生も約束されたも同然。
しかしエリートにありがちな、孤独や悩みや葛藤…。
落ちこぼれは、世間や周囲から見放され、見下され、のけ者、笑い者。
落ちこぼれはダメダメ…?
否!
心優しき者、頑張り者…。ポイントはエリートでなくとも、人間性はエリート。
その区別は本当にポイントだけで分けられてしまうのか…?
エリートはエリート、落ちこぼれは落ちこぼれ…簡単に仕分けられる事じゃない。
それぞれの良さがある。強さがある。悪さがある。弱さがある。思いがある。
エリートならいい、落ちこぼれなら悪い。そんなの、良き社会とは言えない。
個性や多様性の受け入れ、誇りを訴える。
いつぞやニュースで中国の未来図だったと思うが、国民の言動がポイント化されるというのを見た。
国家に対し良き言動をすれば、ポイント貯まる。生活、進学、仕事、社会、将来、全てに於いて優遇。
その一方…。減点したら、“国家の落ちこぼれ”のレッテルを張られる。
このニュースを見た時、ゾッとした。リアル管理社会。こんなんで本当に良き社会になるのか…?
ますます格差だけが激しくなるのでないか…?
そのせいで人間性、人間関係に支障が出、犯罪にも影響あるだろう。
息苦しい未来図…。
何だか見てたら、これに対しての風刺に思えてきた。
絶交を言い渡した後、風間くんの身に大事件が…!
禁断の時計塔で、びしょ濡れ姿で発見。何者かにお尻を噛まれ、傍らに“33”…?
意識を取り戻した風間くんは何と、しんのすけ以上のおバカになっていた…!
実は天カス学園では、同様の事件が続いていた。
被害者は天組もいればカス組もおり、一見何の共通点も無さそうだが、皆“エリート”に悩んでいた者たち。ポイント減点となった風間くんも然り。
唯一の手掛かり…? もう一つ。
事件の犯人とされるのは、時計塔に潜むと言われる謎の“吸ケツ鬼”。
その正体は…? 事件の真相は…?
しんのすけらはチシオと“カスカベ探偵倶楽部”を立ち上げ、謎を解明する…!
本作のメインの一つである“学園ミステリー”。
さすがに『名探偵コナン』や『金田一少年の事件簿』のような巧妙なトリック、鮮やかな名推理!…ってほどではないが、なかなか本格的ではある。
“33”の意味、怪しげな容疑者、ヒントや伏線もそれなりに。謎が謎を呼ぶミステリー…!
謎の“吸ケツ鬼”が絡む“学園七不思議”的な雰囲気は『金田一少年』っぽい。
トリックや謎解きは多少強引でもあるが、『クレヨンしんちゃん』らしいおバカさを絡め、面白味あり。
犯人の動機、事件の“発端”などもそつなく。
あなたにこの“おバカミステリー”が解けるか…?
頭ではなく、“お尻”を冴えさせよ!
今回、悪役的なキャラは居ない。犯人も事件の発端者も。
敢えてしんのすけらと対する者を言うならば、風間くん。
ある経緯により、“スーパーエリート”となった風間くん。…いや、“スーパーエリート風間さん”!
そんなスーパーエリート風間さんによる、“皆スーパーエリート化計画”。
皆、僕のようなスーパーエリートになれ。天才、羨望の眼差し、人生の勝者で覇者。
それに比べたら落ちこぼれは…。いや、落ちこぼれなんてまだいい。人生の敗者、負け犬。価値などない。
そんな事ない!
スーパーエリートなんかになりたくない!(←ここ、普通だったら落ちこぼれなんかになりたくないって所だが、『クレヨンしんちゃん』らしい逆の発想)
風間くんは風間くん。カスカベ防衛隊だゾ!
クライマックスはスーパーエリート風間さんと焼きそばパンマラソン対決。
スーパーエリート風間さんはロボット変形。
卑怯だぞ!
卑怯? これが現実です。
そう言う天カス学園AIロボット“オツムン”がクセ者。
事件の発端者とは別に(正確には命を受け)、このオツムンこそ事件の拡大者。
犯人を唆し、風間くんに囁く。
「エリートになれる“裏道”があります」
何だか現実社会の“不正”を見ているような…。
スーパーエリート風間さんに劣勢のしんのすけたち。
だけど、諦めない。こういう時こそ、カスカベ防衛隊ファイヤー!
友情パワー、それぞれの力を合わせる。
走れなくなったチシオも参戦。走れなくなった理由、それは…走っている時、ヘン顔になるから。
皆に笑われる。それがイヤだ、怖い…。
しんのすけがエール。チシオちゃんはヘン顔じゃない、頑張ってる顔だゾ!
笑いたければ笑え。もう私は自分を恥じない。これが私!
鉄仮面番長らカス組の面々、野生児ろろも協力。
スーパーエリートに落ちこぼれはそれぞれの能力、力を合わせて挑め!
そんな彼らの姿に、当初はスーパーエリート風間さん派だった生徒たちもしんのすけらを応援。
何故? 何故落ちこぼれを応援する? 皆、スーパーエリートになりたくないのか…?
今回、野原ファミリーの出番は珍しくほぼナシ。それでもラストのマラソン観戦中、さすがビシッと名台詞!
「頑張ってる人を笑う奴は、ハゲワシに頭をつつかれろ」(みさえ)
「どんなに笑われても、何かに頑張ってる我が子は誇り」(ひろし)
前半のしんのすけと風間くんの口喧嘩。風間くんある一件に対しみさえを「お前のママはダメダメだ!」と言い放ち、しんのすけが言い返す。「オラの母ちゃんはダメダメなんかじゃないぞ!」。
今回はカスカベ防衛隊がメインだが、野原ファミリーの絆も勿論忘れずに。
しんのすけとスーパーエリート風間さんのマラソン対決はいよいよ拮抗。
オツムンには分からない。何故人は負けると分かっていても、こんなにしがみつく…?
青春とは…?
友情、奮闘、汗、恋、涙…。
一つだけに留まらない。
だからこそ、謎。
青春は、ミステリー!
風間くんは何故、この学園に来たがったのか…?
将来、エリートになれる。実は、ただそれだけじゃなかった。
マラソン始まる前、体験入学するに当たって学園へ宛てた手紙。
それには、友達への思いと皆がそれぞれエリート。
誰よりも友達が大好きな風間くん。毎度毎度イライラさせられるおバカなしんのすけの事も。…いや、しんのすけの事は特に。
風間くんがしんのすけに宛てた“エリート表現”は、『クレヨンしんちゃん』ファンなら誰もが知ってるし、胸打つ。
今は皆一緒。だけど、小中高と成長していけば、いつまでも一緒とは限らない。いつか、離れ離れになる日も…。
そんなの、絶対イヤだ! 皆といつまでも一緒にいたい。皆一緒にエリート学園に進学に。
一途かもしれないが、独り善がりかもしれない。
だけどね、風間くん。例え将来進学や人生がバラバラになったとしても、友情までバラバラになったりは絶対ない。
だってオラたちは、友情がスーパーエリートのカスカベ防衛隊だゾ!
エリートとは…?
学園ミステリーと青春。
そして、友情…。
それらを『クレヨンしんちゃん』らしい表現力とイマジネーション、笑いと感動で贈る、好編!
尚、本作の原点であるとされるのは、『クレヨンしんちゃん』原作の中でも名編中の名編『オラの心はエリートだゾ!』。
エリート×しんのすけと風間くんの友情エピソードで、共通点あり。
初めて原作漫画でこのエピソードを読んだ時、本ッ当に感動! 名作と誉れ高い映画『オトナ帝国』に負けず劣らずの屈指のエピソード。
本作を見たならば、合わせて是非!