「【”多感な少女は哀しいことが重なっても、涙で哀しみを洗い流し、過ぎゆく夏と共に、残された家族と”前に進む。””一夏のある家族の経験を、少女目線で描いた静謐で精緻な作品。】」夏時間 NOBUさんの映画レビュー(感想・評価)
【”多感な少女は哀しいことが重なっても、涙で哀しみを洗い流し、過ぎゆく夏と共に、残された家族と”前に進む。””一夏のある家族の経験を、少女目線で描いた静謐で精緻な作品。】
ー 生きていれば、様々な哀しき事が起こる。だが、その哀しみにいつまでも囚われていたら、前には進めない。だから、哀しみを涙と共に洗い流し、前に進むのだ。ー
■感想<Caution! 内容に少し触れています。>
・静謐なトーンで物語は進む。
冒頭と中盤とラストには”昭和歌謡の様な”哀切な歌が朗々と流れるが、他にはドラマティックな音響は一切ない。
ユン・ダンピ監督が意図的に最小限の音にしているのだろう・・、と推測する。
・夏休みに入り、中学生(位かな・・)の少女オクジュは、弟ドンジュと、父と暮らしていた家を名残惜しそうに後にするシーンから物語は始まる。行先は独り暮らしのお祖父さんの家。
ー 母親はいない・・。ー
・今までの家よりはるかに大きなお祖父さんの家。二人は恥ずかしそうにお祖父さんに挨拶する。お祖父さんは、言葉少ないが彼らを迎え入れる。
ー 淡々と、淡々と、淡々と、物語は進む。ー
・日々過ごす中、オクジュとドンジュはツマラナイ事で喧嘩をしたり、叔母さんが転がり込んで来て賑やかになるが、叔母さんの夫が夜に押しかけてきたり・・。
その中で、観客はオクジュの父親が仕事で行き詰まり、妻と離婚したことを知るのである。
ー 淡々と夏の日々は過ぎていくが、小さな出来事の数々がキチンと描かれている・・。ー
・父と叔母さんが、具合の良くないお祖父さんを病院に連れて行ったり、面倒を見ているが、一方ではお祖父さんの家を売ることを考えている父。
ー 父が路上で打っていたナイキのシューズが偽物だった事、
弟が”自分達を置いて家を出た母親”と会って、お土産を貰ってきた事、
お祖父さんの家を売ることを考えている父の想いが分かり
心に堪った複雑な気持ちを激しい言葉で、口にするオクジュの姿が少し沁みる。ー
・お祖父さんの葬儀が終わり、それまで号泣していた叔母さんやオクジュの母親とお祖父さんの写真の前で、”普通に”食事をする”オクジュの家族たち。
ドンジュはふざけて踊りを始める・・。
お祖父さんの広い家に戻り、父とドンジュとたった3人で夕餉を囲んでいる時、不意に号泣するオクジュの姿。
ー それまでの様々な出来事、想いが緊張が解けた時に溜めていた感情が迸ったのだろうな・・。ー
<そして、翌朝、蚊帳の中で
”それまで、決して一緒に寝なかった弟”
と穏やかな表情で寝ているオクジュの表情が印象的な、静謐で精緻な作品である。>
<2021年5月16日 刈谷日劇にて鑑賞>