劇場公開日 2021年2月19日

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「中国と西欧──今難しいときだが、希望を感じる」世界で一番しあわせな食堂 abukumさんの映画レビュー(感想・評価)

4.0中国と西欧──今難しいときだが、希望を感じる

2021年3月6日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

監督はアキ・カウリスマキのお兄さん、ミカ・カウリスマキでした。
 アキと勘違いして見てしまったが、ミカも映画作法はすごくうまいと思う。おとぎ話のようなストーリーと言う人もいそうな映画だけれど、私はリアリティを感じた。
 フィンランドの美しい自然の映像と美味しそうな中華料理の力かもしれない。あと、役者がいい。
 永瀬正敏にちょっと似ている上海シェフ・チェン役のチュー・パック・ホングは、なかなか渋い。歌が非常にうまくて、泣かせる。公式サイトの情報によると、バンドもやっている役者ということなので、なっとく。
 フィンランド田舎食堂の女丈夫、シルカ役のアンナ=マイヤ・トゥオッコも、最初は脇役かと思ってしまったが、徐々にヒロインとしての存在感を増してきて内面の美しさがどんどん現われてくる。ちょっと見が綺麗なだけの女優にはなかなか表現できない人間味を感じた。

 中国が今、ヨーロッパでどのように受け取られているかを考えると、映画の登場人物は異文化に対して優等生すぎるかもしれない。しかし、途中で出てくる学校の子どもたちが多民族なので、フィンランドの今後はこうあるべきだという監督の理想なんだろう。それはそれで支持したい。先住民サーミも白人ではないし、フィンランド人は日本人ほど視野は狭くないのかも。
 (「ある海辺の詩人」(アンドレア・セグレ監督)をちょっと思い出してしまった。あれは悲恋もので、この映画はハッピーエンドだが)
 チェンは30年くらい前の中国を想起させる好青年、一方、小学生の息子は最初のうちは今の中国のイメージそのままでちょっと憎たらしい。でも、実は哀しみを抱えていて、雄大な自然のなかでシルカの腕に抱かれて素直になっていく。
 これを見ていると、今こそ自然を見つめ直せば希望はあると考えさせてくれる映画です。

abukum