「食って凄い... 人を笑顔にさせる。」世界で一番しあわせな食堂 Puti Nakiさんの映画レビュー(感想・評価)
食って凄い... 人を笑顔にさせる。
海外で何の当てもなく人を探すなんて、途方もなく、しかも子供連れって...? そんな無謀としか言えないストーリーを許せる余裕は自身にあるのか?
"優しさの証明" を問われているようで
映画のオープニングで登場した湖に広がる緑豊かなフィンランドのラップランドの人の手が入っていない大自然を背景にゆっくりと急がず映し出された美しい風景を見たとたん、何かいい話にめぐり逢い、心温まる映画を見る機会を与えられたのかもしれないと期待するのはいけないことなのか?
あたしがもし、下品にこの映画にツッコミでも入れたら、あんたたち、失礼皆様が嫌いになるよりあたしが嫌な思いになるかもしれないって... コ ・ ワ ・ イ ⁉
そらきた! 映画も始まってから17分過ぎに起こるチョとしたイベントらしきもの
いきなり10数人の中国人ツアー客がシルカの営むレストランに押し寄せてきて、彼女がどうしようもなく途方に暮れているところを前日に見知らぬ東洋人親子に泊まる場所を提供してくれたよしみやその恩返しからチェンは料理を手際よく作り、次の日の注文も受け段取りも取りつける... すごくいい滑り出しのプロットとして、良く描けている。 と思いきやそんなことは天地がひっくり返っても起こりやしない。まして相手は中国人 常識として... 何故か⁉
決まった場所や土産物屋に連れまわすツアーガイド... 表向きはツアー客の安全確保や迷惑行為の防止と謳っているけれども実際のところはちがう。今、現在は知らないけど昔はツアーガイドにはバックマージンとかコミッション・フィーという店からのキックバックがあった。売り上げとか、その店に行っただけでツアーガイドにはお金が支払われるシステムのこと。
それと一番してはいけないことをこの映画製作者は行っている。
見知らぬレストランでツアー客に食事させた事... つまり食中毒の問題。
ガイドの一番いやな事は親会社である旅行会社にクレームをつけられるところにある。中国の人なら関係ないって⁉
あたし、やらかして、言ってしまった。また悪者ね? おバカな話しは放っておいてと
WELCOME TO SANTA CLAUS VILLAGE IN ROVANIEMI
– OPEN EVERY DAY OF THE YEAR
サンタクロースグリーティングセンターって聞いたことのある人はオープンで優しい人なのかもしれない... だって、サンタクロース村にはサンタクロース宛に、毎年70万通を超えるお手紙が届き、その返事がまた世界中に届けられるから。
サンタクロースの所在地であるフィンランド北部にあるラップランドが今回の映画『世界で一番しあわせな食堂』の舞台となっている。
忌まわしいCOVID-19禍の世界でなければ... ラップランド州の州都であるロバニエミは北極圏の入口から南へわずか8kmに位置する人口約3万5千万人の町に年間50万人以上の旅行者が訪れる観光都市と言われ、オーロラ観光もできるはずが、今はそうもいかない。
"季節は冬夏冬冬" と冗談も出るほどの北極圏に近い都市は当然、日の昇らない極夜の冬は長く、その正反対に日の沈まない白夜の夏はあっと言う間に過ぎ去ってしまう別世界という事を考えると...
"Fish out of water" コメディ
ジャンルをさらに細かく分類付けした意味の言葉:サブジャンル... コメディのサブジャンルである "Fish out of water" コメディが本作品『世界で一番しあわせな食堂』にあたる。
映画製作が始まって以来、つまり映画の黎明期から世界的に人気のあるコメディサブジャンルとして確立していて、例を挙げるなら、『バック・トゥ・ザ・フューチャー(1985)』、『ビッグ(1988)』、『カラー・オブ・ハート(1998)』他にもたくさんあるけれどもこれらのコメディ映画に共通する点は、キャラ(魚)が通常の環境(水)の外にいるシチュエーションという事... そんなの常識さ、なんていう御仁には関係ないさぁ~ってか⁉
『バック・トゥ・ザ・フューチャー(1985)』は若いマムとダディがいる過去に戻り、『ビッグ(1988)』は子供が大人の世界に、『カラー・オブ・ハート(1998)』はモノクロの世界へ... そして本作品『世界で一番しあわせな食堂』は暖かい上海から来た東洋人が冬は極寒のフィンランドの片田舎のレストランでオーナーのどちらかというと料理下手のシルカとの奇遇な出会いから地元の人たちとのゴールデン・ゲート・ブリッジ級の交流を描いたフィンランドの初夏を思わせる心の雪解けのようなポッカポッカな物語となっている。
A healthy mind in a healthy body.「健全な精神は健全な肉体に宿る」... 今話題のスポーツ憲章か⁉ なんてね。 本当は第三帝国の時代に言葉の意味がスローガンに変えられていて
You ought to pray for a healthy mind in healthy body.「願うならば、心身ともに健康であることを願うほどにしておきなさい(したほうがいい)」なんて古代ローマの皮肉屋の詩がルーツとされ本当の意味となっている⁉
スープか前菜の話としてぜい肉が振り子のようにプランプラン動く地元のオッちゃん達の偏った食事から健康を失っているところをミスター・シェフことチェンの冴えた料理の腕前から食べてもおいしく、見た目もにインスタ映えするほどプレイトには立体的で奇麗に美しく、そして古文書からの薬膳は徐々にオッちゃん達の健康を取り戻していく。それと同時にチェンが彼らのコミューンに溶け込んでいく様子を急がず、焦らず、心地良く、ミカ・カウリスマキ監督はフィンランドの大自然と対極にある究極の小宇宙である料理のアントレとを暖かいフィンランドの世界を穏やかに映し出している。
そして映画の前半で、チェンと息子のニュウニュウとのよそよそしい関係やニュウニュウの独りぼっち観が、シルカの持っている人に対する心の温かさが、彼の心の氷を溶かし、豊かにするあたりは、この映画のメインディッシュと個人的には捉えている。
何よりも心身ともに健康であるという、誰もが持ち得て、許されるわずかな幸せと希望という喜びが大切であることを温かく見守れる映画となっている。
コメディとの繋がりはないけれども映画が始まった瞬間にアメリカ国立フィルム登録簿に登録されている西部劇の名作中の名作、ジョージ・スティーヴンス監督、アラン・ラッド主演の映画『シェーン』を反射的に思い出している。主演を務めたアラン・ラッドの数奇な運命... ジョージ・スティーヴンス監督の名作『ジャイアンツ』には本当はジェームズ・ディーンではなくてアラン・ラッドがジェット・リンク役をするはずだったけれど... 1964年に彼は亡くなり、、ジェームズ・ディーンは『ジャイアンツ』が公開された前年に他界している。
"You ought to pray for a healthy mind in healthy body" 前述のこの言葉がアラン・ラッドの夭折に改めていたく響く... 168cmと背が高くなかったけれどスクリーンでは大柄に見え、低音のボイスの彼... シェーンと牧場主の息子ジョーイとの関係を見ていると、この映画の息子のニュウニュウとチェンとの関係がフィンランドの夏の濃い緑の木々のように育っていき、またここで暮らす人たちの素朴さとフトコロの深さと心の豊かさが羨ましくも魅力的に描いている映画に会えて、しかも笑顔で観ることができた事へ感謝したい。