劇場公開日 2021年7月30日

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「原作に対する見事な返歌となっている一作。」返校 言葉が消えた日 yuiさんの映画レビュー(感想・評価)

4.0原作に対する見事な返歌となっている一作。

2021年9月17日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

本作の予習と思って原作であるゲーム版『返校』を体験したら、あまりの恐怖におののた(ホラーゲームは苦手…)観客による感想です。

予告編でも示されているように、本作の舞台は、「白色テロ」と呼ばれる、中国国民党政府による政治的弾圧の渦中にあった1960年代の台湾です。同様の時代を扱った映画としては、侯孝賢監督作品『非情城市』(1991)やエドワード・ヤン監督作品『牯嶺街少年殺人事件』(1991)などがありますが、本作にもこれらの作品を連想する要素が頻出します。この既視感は、単にこれらの作品の時代背景が類似している、というだけでなく、原作の『返校』自体、前述のようないわゆる「台湾ニューシネマ」の影響を強く受けていることも要因となっています。映画に影響を受けたゲームを映画化するという、本作自体が表題のごとく、「戻ってきた」ものなのです。

せっかく恐怖に打ち震えながら原作のゲームを体験したので、原作(ゲーム版)と映画版の違いを少し挙げておくと、原作は道教といった宗教的な要素を強く打ち出していますが、本作では政治的弾圧の側面を強調しています。特に幽霊の造形にその違いが顕著に表れています。

基本的な物語の筋は概ね一致していますが、映画版では男子学生ウェイの存在感が大きくなっている点が原作と最も大きな相違点です。また映画版では、全体的に原作ではあまり詳細に描かれなかった「読書会」や「弾圧」の描写にかなり力点を置いているため、原作では良く分からなかったところが上手く補われています。

女子学生ウェイの抱える鬱屈がかなり大きな意味を持っている作品ですが、原作は主人公二人の役割をはっきりと分けることで、この不気味かつ不可解な学校空間とウェイの心の関係がわかりやすくなっています。一方映画版では主人公二人をほぼ均等に描いているため、この空間が出現した意味がちょっと不鮮明となっていました。ここはちょっと残念なところです。

そんなごくわずかに気になるところはあるものの、全体的にとても良い作品でした。本作に感動した方は、原作のゲームを体験するとより一層味わい深いと思いますので、機会があればぜひおすすめしたいです(恐いけど)。

yui