「誰が信用できるのか? 誰も信用できないのか?」ミークス・カットオフ Imperatorさんの映画レビュー(感想・評価)
誰が信用できるのか? 誰も信用できないのか?
1845年の実話にインスパイアされたストーリー。
史実では、ステファン・ミークという男のガイドで、約200のワゴンで約1000人の移民団が、砂漠を突っ切る“近道”をしようとしたが、立ち往生したという。
ミークが実は道をよく知らないことがバレて、移民団はミークを見放し、最終的には大被害なく移動できたようだ。
本作は、映画「ウェンディ&ルーシー」などと同じく、ジョナサン・レイモンド作だが、原作ものではなく、レイモンドがこの映画のために脚本を書き下ろした。
3つのワゴン、約10人の移民グループで、実話と比べると百分の一のスケールに変わっている。
ガイド(案内人)に振り回される移民たち。
最初はミークがガイドだが、最後は原住民のインディアンがガイドになる。
一体、誰が信用できるのか? いや、誰も信用できないのか?
水不足に陥る恐怖体験、および、“人間不信”がテーマの本作品は、いわゆる“ロード・ムービー”ではないと思う。
ミシェル・ウィリアムズ扮するテスロー夫人が一応主役だが、特定の主人公の旅に焦点を当てて、映画を通してその生き様を表現するわけではない。
(逆に、映画「ウェンディ&ルーシー」はある町から全く動かないが、ロード・ムービーと呼んでいいはずだ。)
ただ、全体的に中途半端な作品で、何の映画か?というと、よく分からないのである。
砂漠やアルカリ湖といった、荒涼たる自然の描写は印象的だった。構図も凝っていて、ひとつひとつが「画」のように美しい。
過激な演出を避け、BGMで騒ぎ立てることもなく、じっくりしたリアリズムに徹している。
しかし会話には乏しく、人間が葛藤するドラマとしては浅い。“恐怖”の演出も抑制的だ。
新手の“西部劇”とも呼べないし、意思決定に参画できない女性の弱い立場を告発するわけでもない。
ラストシーンのテスロー夫人のまなざしが、最も強烈に感じられるほどに、淡泊な味わいの、充足感の得られない映画だった。