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「The Man Who Is Laughed. 日本映画も見習うべき見事な脚本っ!面白い映画ってこういう事だろっ!!」ジガルタンダ たなかなかなかさんの映画レビュー(感想・評価)
The Man Who Is Laughed. 日本映画も見習うべき見事な脚本っ!面白い映画ってこういう事だろっ!!
駆け出し映画監督と凶暴なギャングの奇妙な関係を描いたクライム・コメディ『ジガルタンダ』シリーズの第1作。
ひょんな事から長編映画監督デビューが決まった青年、カールティク。プロデューサーの意向でギャング映画を制作する事になるのだが、リアリティを求めた彼は本物のギャングを取材して脚本を執筆しようと考える。
目をつけたのはマドゥライを牛耳る”アサルト”セードゥという、名前を口にするだけでも消されてしまうという危険すぎる人物。早速マドゥライへと潜入取材に出向いたカールティクは、セードゥの実態を探るため彼の部下たちに接触するのだが…。
2024年、映画ファンの耳に突如として飛び込んできた”ジガルタンダ”という耳慣れない言葉。なんでも『ジガルタンダ・ダブルX』(2023)とかいう大傑作がインドから上陸してきたという。
これは観たい!…と思っていたのだが、上映規模の小ささから鑑賞すること叶わず…🌀まぁでも、『ダブルX』というタイトルからもわかる様にどうやらこれは続編らしいので、配信orソフト化される前にその前編にあたる本作を鑑賞してみました。
ちなみに、タイトルである”ジガルタンダ”とは本作の舞台となるインド南東部の都市マドゥライの名物ドリンク。牛乳にアーモンドやサルサパリラの根っこなどをブレンドし、そこにソフトクリームを乗っけた甘い飲み物の様です。美味しそう!
正直なぜこのタイトルなのか、本編を鑑賞してもイマイチよくわからなかった。どうやらジガルタンダ=「冷たい心臓」という意味らしいので、日本語で言う「肝が冷える」みたいな意味合いを込めてこのドリンク名をタイトルに持ってきたのかしらん?そう考えればスリリングなこの映画の内容にピッタリに思える!
まぁただ、監督であるカールティク・スッバラージが本作以前に制作した作品のタイトルが『Pizza』(2012)なので、ただ単に自分のフィルモグラフィーを食べ物で統一させたかっただけなのかも知れない。
主人公の名前=監督名で”映画についての映画”を制作するという、ある種ナルシスティックともいえる変則技を披露したスッバラージ。
本作は彼の2本目の長編監督作品なのだが、本当はこれをデビュー作にしたかったのだという。資金が集まらなかったため、仕方なく低予算映画の『Pizza』を作ったという事だが、確かに本作が彼のデビュー作になっていたなら、相当なインパクトを世間に与えていた事だろう。
とにかく、主人公の名前からもわかる様に相当この企画に自信を持っていた事がわかる。
脚本が上手い!!!
この作品についてはとにかくこの一言に尽きる。「ヤバすぎるギャングとの奇妙な共同生活」という、半ば食傷気味のよくあるコメディ映画かと思っていたら、物語は予期せぬ方向へと進み始める。ストーリーの経過と共にどんどんと表情を変えるそのプロットは、さながら10の顔を持つと言うヴィシュヌ神のよう。
また、コメディとシリアス、日常描写と暴力描写の切り替えが巧みで、観客の心を鷲掴みにしたままブンブンと振り回す。泣き、笑い、サスペンス、ノワール、ミュージカル、アクション、そしてウェスタンと、映画に必要なほぼ全ての要素が見事な配分で詰め込まれている。
本作の脚本を書いたのはスッバラージ監督本人。そりゃこんな脚本書けたら、主人公を自分の名前にしちゃいたくもなる。だってスゲーもん!!
これは決してド派手なタイプの映画ではない。インド映画にありがちな大爆発もバカ多いエキストラも金ピカなセットもこの映画には登場しない。
このスケールの小ささだからこそ、本作は凄い!派手なギミックがなくても、アイデア一発で映画はここまで面白くなるんだということを証明してみせた。
予算の少なさに嘆く邦画業界の皆様、ちゃんとこの映画観ました?金が掛かってなくてもこんなにオモロい映画が撮れるんやで!
よく出来た脚本は大絶賛したいが、正直、冗長さはかなり感じる。インド映画らしく3時間近くある長尺映画だが、この物語なら2時間で充分描き切れたはず。
また、ロマンスの描き方はかなりおざなり。ヒロインに対する主人公の態度はかなり不愉快だし、殺されたヤクザの若衆サウンダルの家族に関しては、オチの付け方があまりにテキトーすぎ。多分監督はあんまりラブストーリーとかに興味ないんだろう。恋愛要素はインド映画には不可欠なものだが、本作に関しては別に無くても良かったよね。
あと、完成したフィルム「ア・クマール」の内容はもう少し映し出して欲しい。抱腹絶倒なその内容を観客に明示しておけば、もっと後半の展開が面白いものになったと思う。
以上の点から、歴史に残る大傑作!…と評する訳にはいかないが、まぁとにかくよく出来たお話でビックリしちゃいました。
『卑劣な街』(2006)という韓国ノワールから着想を得たらしいのだが、確かに本作中盤の大見せ場、雨の中での盗聴シーンは韓国映画も真っ青の緊迫感に満ちていた。『タイタニック』(1997)のジャックとローズのお面をそんな風に使う!?やっぱスゲーよこの映画!!
恐怖や暴力に対抗する”武器”としての映画。カメラはどんな銃よりも強力なショットを放つ事ができるのだ。
世界中どの国でも翻訳可能な普遍的な物語なので、日本でのリメイクも容易に出来そう。芸能事務所が権力を握り、碌に演技の勉強をしたこともないモデルやアイドルあがりのクソみたいな俳優がキャスティングを占める我が国なら、一層この物語はパワーを発揮するはず。
「映画監督を目指す青年・若松孝二はリアリティのあるヤクザ映画を撮影するため、新宿を根城にする安藤組の組長・安藤昇の素性を調査し始めるのだが…」とか、ほらもう面白そう!松竹さん、一緒に一山当てません?
※他言語国家であるインドは、地方によって制作されている映画の言葉も当然違う。
”ボリウッド”という言葉を耳にする機会は多いが、これはインド映画全般を指す言葉ではない。これは西インドの都市ムンバイを中心に制作される、主にヒンディー語を用いる映画の事を意味するのである。近年の作品では『タイガー』シリーズ(2012〜)が有名。
日本でも大ヒットした『RRR』(2022)はテルグ語映画。これらはインド中南部の都市ハイデラバードを中心に制作されており、”トリウッド”と呼ばれる。
本作はタミル語映画。これらはインド南東部にあるチェンナイという都市を拠点に制作されており、”コリウッド”と呼ばれている。
この様に、言語によって様々な”〜ウッド”が存在するインド映画界。これらがスラスラ言える様になれば、あなたも立派な映画通。