「辛さも苦しさ抱えて、前を向いて歩くためには。」岬のマヨイガ kouさんの映画レビュー(感想・評価)
辛さも苦しさ抱えて、前を向いて歩くためには。
Amazonプライムにて視聴
元は児童文学を設定調整してアニメ映画化した作品。
細かい伏線等はないので、多少のネタバレは記載してしまっております。ご了承ください。
震災や事故、家庭環境の不和で居場所を失った少女たちと、それを迎え入れる謎のババア。
そして、少し不思議な世界との交流を描いた作品。
基本の映像は丁寧で綺麗ですが、特筆するほどではないです。
人物描写が薄めなので、アクションやキャラクター演技は弱いです。
背景美術はかなり精細な描写です。東北の美しい空気感を味わえます。
昔語りのシーンの構図・カット割り・映像表現が異常にレベルが高くなるのは何なんでしょう……。
震災被災跡地を軽い描写のみ写すのは、多くを語りすぎない事による配慮とも言える。(ショッキングな映像は流せば良いと云うものではない)
マヨイガの表現は良くも悪くも日本的な表現。Jホラー的だるまさんがころんだ方式。
ミラベルと魔法だらけの家(ディズニー)までは行かなくても、ハウルの動く城的な可変的表現があっても良かったかも。
前半は、軽めの説明から、3人が共同生活するまでを、ゆっくり描く。
中盤から、少しずつ生活を前へ進み始める話。
後半からは、ふしぎっとと洞穴に封印されたアガメの話へと進んでいく。
この作品は、「苦しみを抱える中、共に支え合い、前を向いていく事の大切さ」を描いていると思う。
悲しみは多くとも、それを抱え続ける事は、負のものを生む。
悲しみを乗り越える時に、向かい合う必要はない。時には別の方向へ逃げる事も必要。
それは、今の生活から離れた所にあるかも知れない。
それでも前を向いていれば、そこには新しい世界が広がるのかも知れない。
そんな事を感じさせる、良い童話だった。
丁寧な語り口なので、安心して見られる作品だ。
逆に毒を薄めに作ってあるので、琴線に触れるまでは至り辛くなっているのも悩ましい。
それなりにまとまった良作ですので、お暇なら視聴しても良いかと。
最後に声優さんについてですが、
主人公のユイ役の芦田愛菜さんは、圧倒的に上手いです。その辺の声優さんよりも上手いかも……。怪獣の子供の時も思ったけど、演技の鬼。独白のシーンの声の震え方が上手すぎて、引くレベル。
キワさん役の大竹しのぶさんは、下手ではないけど序盤違和感がある演技になっています。後半からは慣れのせいか、そこまでは気になりませんが……。
ひより役の三宅希空は、上手いけど普通かなぁ。もう少し一発目はガラガラになってて欲しかったかも……。
カッパ軍団の俳優さん芸人さん方は、キャラ性もあるのでギリセーフ。
東北出身の方も多く、被災地支援の一環である事が大切な作品なので、こちらの方で良いのだろう。
あと、田中のお地蔵様の声が良すぎてウケる。さすが江原さん。
総じて、悪くない配役でした。
俳優声優が苦手でも大丈夫なレベルです。
余談
前から思っていたのだけど、後半から慣れてくるタイプの声優(俳優)さんについて、
こっちが慣れてくるのかと思っていたのだけど、たぶん演技中に上手くなっていっているのだと思う。
今回の大竹しのぶさんなどは、明らかに前半の演技と後半の演技の質が違う。
つまりは、多くの作品では俳優起用の際に、演技指導の時間が足りていないのだと思われる。
演技の中でキャラに慣れていき、結果として後半からキャラが出来上がるのだ。
予算の都合があるかも知れないが、俳優さんを声優起用する際は、長めのスケジュールを確保して、アフレコ・アテレコをして頂きたいと願う。