「遠野に行ってみたくなる!」岬のマヨイガ おじゃるさんの映画レビュー(感想・評価)
遠野に行ってみたくなる!
そのタイトルからちょっと気になってはいたものの、キャラデザにイマイチ魅力を感じられず、鑑賞を迷っていた本作。たまたま時間ができたので、思いきって鑑賞してきましたが、予想以上によい作品でした。事前情報なしでの鑑賞だったので、「マヨイガ」は「迷い蛾」かと思っていて、まさかこんな話だとは思いませんでした。
ストーリーは、東日本大震災で避難所にいたユイがひょんなことからキワというおばあちゃんと孫のひよりと、岬の崖の上に建つマヨイガと呼ばれる家で一緒に暮らすことになるが、その家ではなにか不思議なことが起き、しだいにキワの秘密が明らかになるなかで、三人の絆が固く結ばれていくというもの。
東日本大震災、被災者の悲しみや苦しみ、それでもなおその土地を離れず生きる人々のたくましさ、故郷への想いなどを、ノスタルジックで美しい風景と遠野民話を交えて描いており、もうこれだけで心に深く染みてくるものがあります。加えて、父親との確執に苦しむユイと、両親との死別の悲しみが癒えないひよりの成長譚でもあります。
ユイとひよりが人と自然との触れ合いから徐々に心を開く前半に対して、後半は「ふしぎっと」と呼ばれる妖怪が登場する予想外の展開でしたが、遠野民話と震災復興や郷土愛を絡めた、吉田玲子さんの脚本は秀逸でした。ちょっとあっさりではありましたが、狐舞の複線回収しながらのクライマックスもよかったです。
それにしてもキワさんはいったい何者なのでしょう。考えようによっては、キワさんは特別な人ではなく、昔はみんな普通に妖怪と会話し、共存していたのではないかとも思えてきます。そんな東北の自然と神秘を肌で味わってみたいです。以前からずっと遠野を訪れてみたいと思っていたのですが、その思いがますます強くなりました。本作が一人でも多くの人の目に触れ,復興支援の一助になることを願います。