劇場公開日 2021年8月27日

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「意外に壮大なスペクタクル」岬のマヨイガ 耶馬英彦さんの映画レビュー(感想・評価)

4.0意外に壮大なスペクタクル

2021年8月29日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

 タイトルにあるマヨイガから、柳田國男の遠野物語に出てくるマヨヒガだろうと見当をつけての鑑賞である。遠野物語が物悲しさの漂う民間伝承であるのに対し、本作品は壊れた心の再生の物語であると同時に、ゲゲゲの鬼太郎みたいな妖怪退治の話でもある。意外に壮大なスペクタクルに仕上がっていた。

 大規模な天災地変の被災者は、ある意味で難民のようだ。家は必ずしも家族とイコールではないが、重なる部分が大きい。家と家族を同時に失うと、世界との繋がりが遮断されてしまったような放逐感を味わうことになる。そこに個別の事情が加わる。悲しみの種類は人の数だけあるのだ。
 本作品は大震災の被災者であるユイとひよりが、家と家族を喪失した無力感から、少しずつ精神的な安定と自立を取り戻していく成長物語である。トリックスターであるキワがマヨイガやその他の遠野物語の登場妖怪の助けを借りてユイとひよりを支える。
 一方でゲゲゲの鬼太郎に出てくるような妖怪が、震災で弱ってしまった人々の心の隙間のようなものを栄養にして成長していく。この設定は上手い。悪役は短い間に強大になり、キワと妖怪たちだけが知っている危険な状況は、いよいよ風雲急を告げる。キワたちは勝てるのだろうか。ユイとひよりには何ができるのだろうか。

 キワの声を担当した大竹しのぶはやはり大したものだ。この人の声のトーンが、作品そのもののトーンとなっている。以前コンサートに行ったことがあるが、とても味のある声で歌う。11月には「ザ・ドクター」という舞台があるので、大変楽しみである。
 ユイを担当した芦田愛菜も好演。アフレコの様子を思い浮かべながら鑑賞したが、難しい場面で思い切った声を出していて感心した。歌も上手いから、そのうち大竹しのぶみたいにコンサートもやってほしいものだ。

耶馬英彦