「☆☆☆★★(1回目) ☆☆☆★★★(2回目) ※ 2022年3月8...」ドライブ・マイ・カー 松井の天井直撃ホームランさんの映画レビュー(感想・評価)
☆☆☆★★(1回目) ☆☆☆★★★(2回目) ※ 2022年3月8...
☆☆☆★★(1回目)
☆☆☆★★★(2回目)
※ 2022年3月8日 レビューを改訂しました。
それによって。折角以前にいいね!を頂いた方々の思いとは違う方向へと、レビューが変わってしまった感は否めません、、、
どうかご了承頂けるなら幸いです。
映画の主人公にあたる男は俳優兼舞台演出家。
彼は、その言葉の使い方であり。周りに対する物腰の柔らかさから察するに、一見して(人に対し)優しく性格の穏やかな人間の様に思える。
だが実際にこの男の本質が、映画が進んて行くに従って段々と露わになって行く。
曰く…自分自身への自信の強さゆえに。自分に関わってくる人間に対し、精神的に追い詰めて行く人間だとゆう事実が、徐々に炙り出されて行くのだ。
人の意見を聴いている風に見せかけて、現実には自分の思いを相手に対して刷り込ませようとする。
それが如実に現れる場面が、舞台リハーサルの際の本読みの時。
《感情を出させない》
それを相手に求める彼の狙いはズバリ【支配】だ!
若い男は自信満々の塊。
若い頃からチヤホヤされたがゆえに、その頃の記憶がどうやら抜けきれない。
自信があるからこそ、(芸能界でのしきたりや)社会に対しての反抗の姿勢を崩さない。
「自分は他の人間とは違う!」
その想いこそが彼のアイデンティティを突き動かしている。
そんな彼だったのだが。(主従関係にも見える関係性に於いて)主人公の男から厳しい【支配】を受けたことから、抑えに抑えていた想いが次第に爆発して行く。
この2人の関係性には一体何があったのか?
主人公の男には愛する妻が居た。
彼女はその昔、才能のある女優だったのだが。彼と結婚した事によって家庭内に収まり、女優の道を諦めた過去があった。
結婚生活が進むにつれて、彼女の中での彼に対する愛情が少しずつ薄れて行き、同時に悩みが増して行く。
「こんな筈では無かったのではないか?」…と。
湧き上がる想いが溢れ、彼女は脚本家としての活動を始める。
だが、そんな彼女の真の想いは彼の元には届かない。
周りに対して発する彼の【支配欲】は、彼女の小さな《策略》の前では気付く事が出来なかったのだから。
夫婦間でのセックスの時にだけ浮かぶアイデアの宝庫。
それは、決して彼に対する愛情の証しでは無かった。
それこそが、自分を閉じ込め【支配】していた彼への裏切り。
この彼女の《策略》に、彼女を【支配】していると思っていた彼は、まんまと騙されていたのだった。
【支配欲】が強かったからこそ、彼女の裏切りに気付いた彼に芽生えた想い。それは〝 憎しみ 〟と同時に〝 悔恨 、でもあった。
彼には、自分を裏切っていた妻と関係性が深かったと思える男に関する予想がある程度は出来ていた。
そして今、その男が自分の目の前に居る。
動揺をしない様に努めながら、妻の裏切りに対する【復讐】の意味を込め。この男を〝 精神的に支配 〟する事を選ぶ。
一方で、若い男にはどうしても確かめたい事実があった。
元々、自信満々な性格ゆえ。自分が心底崇拝し愛した人が、共に愛した人とはどんな男なのか?…を。
彼は薄々感じていたのだった。自分は彼女にとっては単なる《遊び相手》だったのかも知れない…とゆう屈辱。
だからこそ、どうしても面と向かっての彼の本質を〝 見抜きたい 〟との想いに突き動かされる。敢えて正面から対峙したくなったのだった。
若い彼にとって主人公の男は、はっきり言って【敵】以外の何者でもない。
現在の【主従関係】から、どうしても《争い》を仕掛ける事は叶わない。
だからこそ、この若い男は絶えず《挑発》を繰り返す。
その想いがやがて爆発を起こすのが、終盤前での車内での長い独白の場面に繋がる。
今、この若い男はハッキリと主人公に向かって【戦線布告】を表明する。
動揺を受けながらも受け流す主人公の男。
若い男に潜む闇の深さに戸惑いは隠せない。
今この瞬間、この若い男を【支配】しようとした自分の計画は失敗に及んだ事実を知るに至る。
そんな彼の元には、ふとしたきっかけで専属の運転手となった寡黙な若い女性。
彼女は自分の過去を一切語ろうとはしない。
頑なに口を閉ざす理由が彼女にはあるのだが、主人公の男にはそれが謎となって彼の脳内で少しずつ大きくなって行く。
その佇まいであり、胸の奥に何かを秘めているであろう雰囲気。現在の《主従関係》から、その謎を解こうと絶えず小さな波紋を投げかけるのだが、それでも彼女の心は凍結し続ける。
現在、主人公が抱えている仕事は、そんな彼を絶えず挑発して来る若い男を含めた多国籍な人種の舞台。
送り迎えをしてくれるのは謎を秘めた若い女性ドライバー。
この多言語を介した不思議な舞台空間。
元も子もない事を呟いてしまうのは愚の骨頂なのでしょうが。どう考えも舞台作品として果たして成立するのかどうか。
そこを、ありそうな空気感を漂わせる脚本であり演出力。
なによりも 「如何にも!」と思わせる美術設計と照明、それに撮影技術。
リハーサルの本読み部分から醸し出されるピリピリとした緊張感を始めとした、役の人達との妙に少しだけズレている…役者VS演出家との確執等。観ていても座りの悪い椅子に座らされている感覚は、監督の演出の冴えも加わって、絶妙なバランスの上に成り立っていたと思います。
そんな舞台作品での中で、一際目立つ異彩を放って居たのが韓国人夫婦の存在。
当初2人は、俳優と舞台スタッフとゆう位置付けであったのですが。若い男の度々に渡る【挑発】等もあり、(主人公の精神バランスも含んで)何度も空中分解しそうになるところを舞台作品全体に於ける《調定役》となってたのではないか?と思わせました。
〝 夫婦であっても元々は他人 〟
そんなこの夫婦の、人への接し方には全くの【棘】がない。
全てを包み込む《包容力》に溢れている。
それだけに主人公の男には、自分と亡くなった妻との関係性に想いを馳せる。
更には謎多き女性ドライバーの彼女。
この夫婦の自宅に2人が招かれる場面こそがこの作品での重要なキーワードになっていた。
この韓国人夫婦は、生活拠点を日本に移した理由を訥々と主人公の男に語り始めるのですが。その根底にあるものは、〝 お互いがお互いを尊重し、他人に寄り添う心を持つ 〟…とゆう心の奥深さにあったのを主人公の男は感じる。
そして彼以上に、この韓国人夫婦に影響を受けた人…それが寡黙なドライバーの彼女だった。
それまで頑なに心を閉じていた彼女は。この韓国人夫婦から受ける無償の愛情により、彼女の心はじっくりと解凍し始める。
そんな雰囲気を感じ取ったのか。主人公の男は、彼女に対してそれまでの《主従関係》な接し方を変え、他人を思い遣るかの様な違う接し方を試みる。
彼は彼女に賭けたのかも知れない。
彼女の心に巻き付かれ、その想いを閉ざしていた茨の鎖が解放される瞬間を見届けようと。
彼女が心を閉ざすキッカケとなった土地と、彼女そのものを【支配】していた人物に対しての彼女自身からの《告白》
その姿こそが、愛していた妻に裏切られていた自分の想いを代弁している…かの様に。
その後に起こる若い男の事件をキッカケとし、彼女のルーツ探しの旅に移行するのですが。その行程自体が、諏訪敦彦監督の『風の電話』と殆ど被る。
主要な出演者に西島秀俊が居るとゆう事も含め、とても危ういのですが。そもそもこの作品には原作が存在する。
何ゆえ原作は未読の為に、その関連性に対してハッキリと言及する事が出来ません。
そこで監督のインタビュー記事を参考として読んでみたのですが。元々の設定は韓国を舞台としていたらしく。大筋を占めていた韓国での撮影自体が、コロナ禍の為に撮影中止の憂き目に遭い、叶わなかったがゆえの応急対応だった…となれば、やむを得ない状況ではあったのでしよう。
初見の際には、漠然とした意見すら言えないくらいに困惑してしまう作品でした。
思い返してみた際に。何となくですが、作品全体で発せられている(製作者側からの)メッセージに対しては、此方の教養の無さもあり〝 それ 〟を受け止める事が出来ませんでした。
つい先頃、2回目を鑑賞。
やはり鑑賞直後は、作品からのメッセージに対して1回目ほどの困惑ではなかったものの、まだ受け止めるほどの理解力には乏しかったのでした。
ですが、日を追うごとに少しずつではあるのですが、(作品に対する)自分なりの想いが沸々と湧き上がって来ているのです。
それは大いなる勘違いの可能性はかなり大きいとも思っています。何しろ、あくまでも作品を観た此方の感想でしかないのですから。
〝 お互いがお互いの気持ちに寄り添う…その単純なる思い遣りこそが紛争を回避する最大の防御策となる 〟
現在、日韓の関係性は冷え切った冷戦状態に突入してしまったかの様な様相へと変化している。
ここまで冷え込んだ感覚を覚えるのは、過去にもない程だと思える。
そんな両国間に登場したこの作品。一応は多国籍な人達を登場させてはいるものの、主要な登場人物はやはり日本人と韓国人…と言って良いのだろうと思う。
ストーリー展開としては、日本人個人の問題であり、日本人同士のイザコザ自体に問題がある。それを韓国人夫婦が優しく包み込む状況を描いていた。
それを持って現実の日韓関係と同一として考える事は確かにあり得ない。あり得ないのだけれど、この作品に登場する韓国人夫婦の関係性で描かれる〝 お互いの気持ちに寄り添う思い遣り 〟
例え、それが韓国人夫婦を通して描かれていた事だとは言え。そんな些細な事すらも気に入らずに容認出来ないナショナリズムの強い人が居たとしても、この作品での夫婦の様に心穏やかにして包み込むんで行く事を目指して行ければと思うのだ。
それはかなり難しい問題なのは理解している。
だからこそ、この作品をキッカケとして。長年に渡っての繰り広げられている日韓の間に高く聳えている《心の壁》の氷解に繋がって貰えたならとても良い事に違いない…との想いを強く抱きながら、、、
2021年9月12日 TOHOシネマズ錦糸町オリナス/スクリーン8
2022年2月6日 キネマ旬報シアター/シアター1