「【”愛する人の全ての行いを受け入れ、自分自身も偽らない。”心理劇、劇中劇、ロードムービーを見事に融和させた作品。生きる辛さ、苦しさ、それでも前を向く大切さを描く。じわりと心に沁みる作品でもある。】」ドライブ・マイ・カー NOBUさんの映画レビュー(感想・評価)
【”愛する人の全ての行いを受け入れ、自分自身も偽らない。”心理劇、劇中劇、ロードムービーを見事に融和させた作品。生きる辛さ、苦しさ、それでも前を向く大切さを描く。じわりと心に沁みる作品でもある。】
ー 久方振りに、鑑賞後も余韻に浸り、席に座っていた作品である・・。
本作の様な素晴らしき作品に出会うために、私は映画館に足を運ぶのである・・。ー
◆作品の印象
ー 出演役者さん達の抑制しながらも、ここぞという所では観る側の気持ちを掴み取る数多くの演技と、原作を大きく膨らました見事な脚本に支えられた、3時間という長さを全く感じさせない映画であった。ー
・序盤は、家福(西島秀俊)が、妻、音(霧島れいか)の性癖に気付きつつも、見て見ぬふりをしながら、妻を愛する複雑な心情が描かれる。
ー ”オーガズムを感じながら、物語を紡ぐ・・。”
そして、現実から逃げていた家福に起きた哀しき出来事、心に負った傷が、後半の展開に繋がっていくのである。巧い。ー
・家福の愛車”SAAB 900ターボ”の格好良い赤い車体が街中を走る姿を俯瞰で捉えるカメラアングル。
車内で交わされる家福と音との会話と、カセットテープに収められた”ワーニャ叔父さん”の音が吹き込んだ劇中台詞と家福が合わせて口に出す劇台詞の絶妙な、シンクロニシティ。
ー この、現実世界の出来事と、”ワーニャ叔父さん”の劇中台詞の連関は、ラストまで続くのである。見事である。ー
・2年後、舞台が広島に移り、家福が演劇作家として、広島で講演される”ワーニャ叔父さん”のキャスティングを決めるシーンや、その後の家福独特のワークショップのシーンもとても面白い。
ー 家福が”ワーニャ叔父さん”に任命したのは、音と情交を交わしていた高槻(岡田将生)だった。家福の復讐かと思ったが・・。ー
・劇団主催者が家福のために用意した、哀しき過去を持つドライバーみさきを演じる三浦透子が良い。最初は、無表情だが、”家福と同じ哀しき想いを抱えているのでは・・”と徐々に気づいて行く姿を絶妙に演じている。
ー みさきの加速、減速を感じさせない運転技術を身に着けざるを得なかった理由も、沁みる。ー
・”SAAB 900ターボ”に乗りながら、高槻が家福を凝視し、眼に涙を溜めながら言った言葉。
”他人を良く知るには、自分自身を偽りなく開示することではないですか・・”
高槻が下りた後、みさきが言った言葉。
”嘘ばかり聞いて来たから、分かります。あの言葉に嘘はないです・・。”
ー 見事な会話劇、心理劇であるなあ・・。車中のシーンの岡田将生さんの表情は、畢生の演技であった。ー
・”社会人としては不適格”と言われた高槻が起こしてしまった事。
そして、”ワーニャ叔父さん”を中止するかどうかを決めるために、家福がみさきと向かったのは、みさきの哀しき想い出が残る北海道であった。
ー ロードムービー要素が加わり、この物語に更に広がりを持たせている。
そして、漸く着いた雪の中の拉げた家の前で、みさきが言った言葉。
”母には、別人格があり、私を叩いた後にサチと言う5歳の娘になるんです・・。母に残った最後の良心だったかもしれません・・。”
そして、漸く心の痼をみさきに吐露する家福の真の叫び。
家福と音との間に生れ、夭逝した娘は生きていればみさきと同じ23歳であった。
同じ哀しみを抱きつつ生きて来た二人。
この瞬間に、みさきは家福の娘となり、家福は彼女を抱きしめるのである。みさきも又・・。
この作品の白眉のシーンであろう。ー
・ラスト、家福は高槻の代わりに”ワーニャ叔父さん”の舞台に立つ・・。
- そこで、韓国手話でソーニャが、ワーニャ叔父さんを演じる家福に語る言葉。
そして、みさきも赤い車体の”SAAB 900ターボ”を韓国で走らせる。
彼女の表情は穏やかだ・・。-
<生きている間には、辛い事が沢山ある。
それでも、絶望に陥ることなく、辛い事から目を背ける事なく、懸命に前を向いて生きていく大切さを”心理劇””ワーニャ叔父さんの劇中劇””ロードムービー”を絶妙にブレンドして描き出した作品である。>
<2021年8月20日 劇場にて鑑賞>
■今作を鑑賞後、
村上春樹さんの『蛍・納屋を焼く・その他の短編』と『女のいない男たち』収録の「ドライブ・マイ・カー」と「シェエラザード」と「木野」を再読。
濱口竜介監督の脚本構成力を再認識した。
間違えて自分のほうにコメントあげてしまいました。同じ内容ですが、村上春樹作品は少々苦手意識があって、映画館には行かなかったんですが、こんなに良い映画とは、、、感動でしたね🥹
今晩は。
私のレビューにコメントありがとうございました。
みさきの故郷の上十二滝村は、多分架空の村かと思います。
旭川の黒岳と赤平市はそんなに離れていません。
車なら2時間位の距離です。
子供の頃住んでいた赤平市は炭鉱の町で、十二滝村よりは多分ずっと都会のイメージでした。
どうして赤平市がモデルに選ばれたか、不思議な気がしています。
大人になってからはずっと札幌に住んでいます。
北海道は広いのでニセコや富良野あたりでもゆっくり観光すると
1泊泊まりになります。
本当に「ドライブ・マイ・カー」は私も多分一生忘れられない映画になりました。
おやすみなさい。
今晩は♪
NOBUさんのレビューで映画のシーンがありありと浮かびました。
私も原作を読みました。
脚本の原作からの再構築に驚くばかりでした。
余談ですが、北海道の上十二滝村のモデルとなった赤平市に
住んでいたことがあります。
後から考えると、あの辺かなぁ、と懐かしかったです。
NOBUさん。
みかずきです。
本作、会話劇の部分は、邦画らしい緻密さ、繊細さを感じました。
手話を加えた多言語舞台劇部分は、設定上難しいとは思いますが、
あまり邦画らしさを感じませんでした。
日本人として邦画が世界的評価を受けるのは嬉しいですが、
邦画らしさというアイデンティティは大切にして欲しいです。
韓国映画らしい韓国映画パラサイトが世界的評価を受けたように。
では、また共感作で。
-以上-
NOBUさん、毎度です。
最初にすごくいい印象だと、反って観直したくない気持ち、わかります❗
すごく泣いた映画を数年後に観直したら、あざとさが見えちゃってガッカリした経験ありますからね。
後、年数を隔ててもう一度観ると、違った良いところか見えたりもしますし、様々ですよね。
邦画よりも洋画好きなので、邦画を観に劇場にはなかなか行かないのですが、本作は本当に行って良かったです。なにしろ、私は脚本です。脚本が良かった。足助に行ったことあります。愛知の食事は大好きです。
NOBUさんコメントありがとうございます😊今日チェーホフを買いに行ったのでが岩波文庫なんで見つからなかったです。かわりに「女のいない男たち」を買って今読んでいます。図書館に行こうかな・・・
この映画全体的にコメント欄が多いですね。なんか言いたい。私もですが。
こんにちは、NOBU さんやっぱりあの映画「メッセージ」にコメントで触れておられましたね!
みさきが韓国で韓国語を話すラスト展開で僕も「メッセージ」の記憶がドドーンと甦りました。
あと、
あの劇中車=スウェーデンのSAABは、無骨さと堅実さ、そしてお洒落度が好きで、僕が40年前に西武自動車からカタログを取り寄せた車でもありました。
黄色と赤のカブリオレ版カタログを求めました
懐かしさで一杯🎵
劇中並走させていたボルボと共通部品も多いので、維持はそんなに大変ではありませんよ。
しかし、監督すごい手腕でしたね。
興奮覚めやらぬきりんです。
みさきが母の別人格のサチの背中をさすっている時は幸せだったー
日当たりの悪そうな部屋のすみでの2人が目に浮かびました。
字数制限なのか、2つになりました。
こちらこそいつも有り難うございます。
ヤッホー、こんにちは。
本当に素晴らしい脚本、構成でしたね〜。劇中劇!ワーニャ伯父さんのセルフと、本編とのシンクロ。
NOVEさんが、本を買い直したのもすごい!私は本を読みながら、ナツメウナギの画像をネットで調べて、ウゥッとなりました。笑笑
北海道のシーンは小説にもなかったのでとでも新鮮でした◎
NOBUさん、原作再読とのこと素晴らしい!私は「ワーニャ伯父さん」読みました。内容知らなかったんで。医師の語り(自然破壊とか資本主義などの箇所)と最後のソーニャの台詞がとても良かったです。
そういえば、NOBUさんの映画鑑賞には車🚗移動が伴うことが多いのですよね。
この映画の余韻を車中で噛み締めたりしてたら、覚えてるセリフの一つや二つ、つい声に出してしまいそうですね。
私だったら、棒読みパターンとかなんとか言い訳しながら(同乗者なんかいないのに)間違いなくやってると思います😓🤗😅
こんにちは、村上春樹批判をするのは読書芸人に多い気がしますね。破滅的なのを好む傾向が強いのか、自己顕示欲が強いのか、分かりませんが、ネトウヨみたいですよね😁もし、時間があるようだったら、ハッピーアワー観てみてください。もしかしたら、リバイバルあるかもしれないし、レンタルもあるかもしれません。濱口さんの作品で6時間超で、ちょー面白いです😁
NOBUさんこんにちは!コメントありがとうございました。
最後のソーニャのワーニャ叔父さんに贈る言葉(セリフ)が印象的でしたよね。これが物語の言いたい事なのかなと思いました!