「【駆り立てるもの】」彼女 ワンコさんの映画レビュー(感想・評価)
【駆り立てるもの】
Filmarks試写会
2021年4月13日
新宿ピカデリー
Netflix作品
このふたりを駆り立てるもの、疾走させるものは、一体、何なのか。
細野晴臣さん作曲のテーマ曲「Indigo 1 Indigo 2」は、原作の「羣青(ぐんじょう)」からインスパイアされた音楽タイトルなのだと思うが、曲はスタイリッシュで、このリズミカルな鼓動は、ふたりが車やカブで風を切って駆け抜ける感じとマッチしていて、逃避行という重苦しさは感じられない。
僕は、これを含めて、この作品の中に貫かれる様々なコントラストがピースとなって、物語に揺らぎを与えているのではないかと思う。
そして、揺らぎが少しずつ収斂して、なぜの答えの確信に迫っていく感じだ。
(以下ネタバレ)
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レイのどこか退屈だがパートナーとの平穏な生活と、身体中アザだらけの七恵との逃避行。
レズであるが、レイの七恵の夫との激しいセックス。
七恵がDVと引き換えに手に入れた裕福な生活。
七恵は貧しく、父親のDVにも苦しんでいた。
裕福なレイと貧しい家に育った七恵。
庇護しようとするレイに対し、自立しようとする七恵。
しかし、DV夫に依存して生活していた七恵。
スパイクシューズを盗んで走る七恵のシーンは、車やカブでの疾走感にも繋がる。
若い頃から何かから走って逃げて、生き急いでいたんだと感じる。
そして、それは、今も変わっていないのだ。
七恵の夫をあっさり殺してしまったレイと、長年DVに苦しみながら何も出来なかった七恵。
どうして、長年会ってもいない自分のために、いとも簡単に夫を殺せたのかという七恵のレイに対する疑問。
どうして、長年会ってもいないのに、そこまでしてあげられたのかというレイの自分自身に向けた問い。
これは、感情的な言い争いも含めて、ふたりの劇中の様々な会話や、衝動的に口から突いて出て来る言葉からも、なかなか答えは見つからない。
兄嫁の「私は家族のためだったら人を殺せる」という言葉が頭をよぎる。
激しくも、どこか美しいレズセックス。
そして、エンディング。
僕は、レズであることを隠して、隠れるように平穏に暮らしていたレイが、七恵からの電話で、初めて本気で好きになった唯一の相手だったことを鮮明に思い出したのではないかと思う。
そして、これが衝動となり一連の行動に繋がったのだと。
いくつも恋愛をしてきた。
確かに初恋も淡く良い思い出だが、本気で人を好きになったことは、その後、その恋に敗れようと、決して忘れることなど出来はしない。
そして、心の奥底に火種は残り続けているような気がする。
そんな人とのゾクっとするような激しいセックスも忘れようはない。
それは皆同じなのではないのか。
実は、このレビューの前段で書いた「なぜ」に対する正確な答えは、僕は、ある意味、ないような気がする。
本気で人を愛したことによるストーリーであることは間違いないとは思う。
しかし、レズも、DVも、理解しない社会も、殺人も、裕福とか貧乏といった境遇も、家族もパートナーも、女を食い物にしようとする男も、これらは全て物語のフレーバーで、本気で人を好きになる理由にたどり着くような材料では決してない。
優しい、趣味が同じ…、好きになった様々な理由を人はつけたがる。
しかし、狂おしいほど人を愛したことに、僕はこんな理由はないと思う。
「待ってるから」
七恵のレイ向けられた最後の言葉。
ふとしたことから七恵を深く愛してしまったレイに対し、愛されたことによって、レイに対する自分の愛に気付く七恵。
ここにも対比がピースとして埋め込まれていた。
あなたには、狂おしいほど愛した人がいますか。
もし、テーマがあるとすれば、これが、その答えだと思う。
いますか?
音楽を担当していた細野晴臣さんもインタビューで言っていたが、水原希子さん、さとうほなみさんの演技は、細かい表現云々より、凄さを感じた。
あれこれ細かいことでコメントする人はいると思うが、総合的に印象に強く残る作品だと思う。
※ 映画館での上映予定はないようだが、Netflixの世界配信になるとのこと。