「アーティストと裏方の本来あるべきパワーバランスを描いた!!」ネクスト・ドリーム ふたりで叶える夢 バフィーさんの映画レビュー(感想・評価)
アーティストと裏方の本来あるべきパワーバランスを描いた!!
大御所歌手グレースと付き人マギーの物語で、プロットとしては『プラダを着た悪魔』に似ているかもしれないが、マギーは『プラダを着た悪魔』のミランダよりも全然聞分けがいいし、耳を傾けようとはしてくれている部分からも、特殊な友情関係という点では見応えがあるし、グレース役のトレイシー・エリス・ロスによる丁度良い大御所感が素晴らしい。
流石ダイアナ・ロスの娘といったところで、キャラクター造形には母のイメージも反映されているのだろう。ステージでの振る舞い方は、正にダイアナ・ロスを彷彿とさせる。
グラミー賞受賞者であり、数々の賞も受賞してきたトップアーティストではあるが、時代の流れには取り残されて、コンサートやイベントの開催はしていて、絶大な支持と人気はあるものの、求められるのは過去の曲ばかり。新曲による新アルバムを発表するも失敗して以来、世間や周りから求められるのは、リミックスやベスト盤という、音楽ビジネスとしては成功していても、アーティストとしては一歩踏み出せず、どうしても保守的になってしまう。
実際にマライア・キャリーやセリーヌ・ディオンといった人たちも抱えている、よくありがちな、大御所ならでは悩みも描かれていてることで、グレースが雲の上の存在ではない距離感で描かれている
今作のダコタ・ジョンソン演じるマギーは、一貫して歌手ではなくて、プロデューサーとしての道を進もうとしている。自分の中でアーティストを育てることへの才能はあると確信している。これは客観視する能力があるということだ。
音楽業界や芸能関係によくあることだが、歌手やアーティストを目指したけれども、限界を感じて、プロデュースやマネージメントというバックステージ・サイドに回る人は多く、お笑い芸人が放送作家になる原理と同じである。
そうは言っても、人ひとりの人生に対する責任を受け止め、自分の信念に確信が持てるかというマギーのプロデューサーとしての、大きな壁を描いている。
地位や名誉、富を築き上げた大御所歌手と、才能はある一歩踏み出せない素人をプロデュースするという、プレッシャーがマギーにとっての、一歩踏み出す試練なのだ。
歌を唄ったり、楽器を演奏する人達だけが人生の主役ではなくって、支えている一人一人も、また主役である。
支えてくれる人がいて、輝くことができるし、支えられる人がいることで、輝くことがでるという、アーティストとプロデューサーやマネージャー、アシスタントの薄れがちな立ち位置、パワーバランスを描いた作品としては。なかなか画期的である。
何故ここまで詳細に描くことができたかというと、脚本家のフローラ・グリーソンは、ユニバーサル・ミュージックの重役のアシスタントとして働いていた経験があり、その中で引退したり他界したアーティストのプロモーションを手掛けていたこともあり、自伝的部分が物語に反映されているからなのだ。
マギーの音楽マニアという設定も、フローラの自伝的部分が活かされていながら、ニック・ホーンビィ作品に登場する「何かに依存するキャラクター」的でもあり、音楽ネタを聞くだけでも楽しい。
今作のキャストにケルビン・ハンソン・Jrがいて、歌を唄うということに、少し不安があった。というのも『WAVES ウェイブス』の冒頭で車で唄うシーンが酷かったからだ。あれは演出の部分もあったのだろうが、今作の登場シーンでドラマ『The O.C.』の主題歌でもあるファントム・プラネットの「カルフォルニア」を口ずさむ時の音の外し方が酷いだ。しかし、その後の美声にはびっくりした。
真面目に唄えば上手いじゃないか!!
信じられないことに、トレイシー・エリス・ロスもケルビン・ハリソン・Jr.も本格的な歌を披露するのは初めてである。 この映画自体が2人の音楽的才能を売り出すメタ的構造となっているのもおもしろい部分である。