「「ソウルの春」を呼ぶ暗殺、しかし民主化は遠かった」KCIA 南山の部長たち abukumさんの映画レビュー(感想・評価)
「ソウルの春」を呼ぶ暗殺、しかし民主化は遠かった
2024年封切りの「ソウルの春」を鑑賞後、映画.comレビューでお勧めがあり、ネトフリにて鑑賞(ちなみに2024年9.19で配信終了です)。
なるほど、1979年12.12粛軍クーデターはこの暗殺事件が伏線となり、「南山~」には後半で意味深な行動をするチョン・ドファンと見られる将軍(国軍保安司令官)が出てきて、納得!でした。
ソウルの春を見ていなくても、純粋にサスペンス映画として面白く、イ・ビョンホンやイ・ソンミンの演技が素晴らしかったです。
個人的には、クァク・ドウォン扮するパク元KCIA部長もよかったです。亡命者の悲哀と精一杯の強がり、自分がやってきた非道な拷問や暗殺を知っているだけに同類の影に怯える恐怖感覚など、真実味が半端ではないです。これは、民主化を勝ち取った今の韓国映画にしか出せないリアリティです(当時ではとても描けなかったが、今は史実をもとにフィクションとしてふくらませることができる)。
ところで、暗殺場所ともなる宮井洞(クンジョンドン)の接待所=安家=は、なぜか日本風の座敷です。床は畳だし障子も日本的。旧日本軍の施設と関係があるのでしょうか? 暗殺より少し前の宴席で、日本陸軍出身のパク大統領とキムKCIA部長が、「あの頃はヨカッタ」と日本語で語り合うシーンがあります。良くも悪くも日本軍時代に共有した原体験と自意識が、韓国の軍事政権の中に色濃く残っていたのだと感じられました。
「ソウルの春」でも感じましたが、韓国軍事政権の中に脈々と流れている戦前の日本帝国陸軍の亡霊を見た思いです。「維新体制」という言葉は、まさに「昭和維新」を意識したものだったのでしょう。
パク閣下の御前密室会議で、釜山や馬山の民衆デモに空挺部隊を派遣して鎮圧するという話が出て、キム部長は動揺します。KCIA部長として米国と交渉し、5.16革命から18年を経て、もう野蛮な虐殺で鎮圧する時代ではないことが、現実感覚としてわかっています。それを防ぐ理由もあって彼が暗殺を決心したというのは、本当かも知れません。
しかし結局、やがて別の形で空挺部隊が市民を虐殺します。光州に飛び火した民主化運動は全斗煥らによって弾圧され、193人(諸説あり、行方不明等で2千人を超えるとも言われる)市民が軍に殺されることになります。
日本ではすでに、45年前の歴史の一コマとなってしまった感がある事件ですが、韓国の人々には決して忘れることができない事実だから、こんなリアリティのある映画ができるのでしょう。
20世紀を通じて日本と韓国で繋っている東アジアの「鬼子=軍事独裁」の恐怖です。