劇場公開日 2021年1月22日

  • 予告編を見る

「非常に複雑で未解明部分の多い事件を、ここまで分かりやすく整理した手腕に脱帽の一作。」KCIA 南山の部長たち yuiさんの映画レビュー(感想・評価)

4.5非常に複雑で未解明部分の多い事件を、ここまで分かりやすく整理した手腕に脱帽の一作。

2021年2月6日
iPhoneアプリから投稿
鑑賞方法:映画館

本作は、韓国の朴正熙大統領暗殺事件に基づいています。作中のほとんどの描写は、同事件を忠実に再現しているのですが、登場人物は全員仮名としており、一応「事実に基づいたフィクション」という体になっています(本作に登場する大統領のみ、「朴大統領(閣下)」と呼ばれてはいるが、下の名前までは呼称していない)。

それでは事件の前知識がないと、あるいは韓国の政治サスペンスに興味をもっていないと本作に入り込めないのかというと決してそのようなことはなく、「かつて韓国で強権的な大統領の暗殺事件があった」、という程度の情報があれば、十分に楽しむことができます。

というのも、本作では主要な登場人物をかなり絞り込んでおり、物語は大統領と、彼に忠誠を尽くすあまり反目し合う情報機関の責任者(主人公)と、大統領警護の責任者のほぼ三名で展開していくという思い切りの良さ。しかも画面内の立ち位置や距離感で、一体誰がどのような思惑を相手に抱いているのかが一目でわかるようになっています。複雑で分かりにくいどころか、ほとんど説明過剰と思えるほどに配慮の行き届いた脚本、演出となっています。

権力を握る男同士の、ほとんど恋愛に近いような情緒のぶつかり合いは、同じく韓国の作品『工作 黒金星と呼ばれた男』でも重要な物語の構成要素となっていましたが、本作の方は大統領への思慕が対立の起因となってしまっています。

『鬼滅の刃』の、いわゆる「パワハラ会議」よろしく、本作の朴大統領による部下への詰め方が、言葉の使い方の悪辣さとか、実にうまいなと…(ほめてない)。彼の言動は、パワハラにうんざりしている人にとっては、結構きついかも知れませんね。

作品に登場する、ある食べ物など、さりげなく登場する小道具にもいろいろと深い意味があったり、映画的な演出に見える描写が実は事実を忠実に反映していたり(あるいは全くのフィクションだったり)するので、鑑賞後は原作を読んであれこれ発見してみると面白いかもです!

yui