劇場公開日 2021年1月22日

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「子供じみた嫉妬と疑心暗鬼が暴走するずっしり重いポリティカルフィクション」KCIA 南山の部長たち よねさんの映画レビュー(感想・評価)

5.0子供じみた嫉妬と疑心暗鬼が暴走するずっしり重いポリティカルフィクション

2021年2月1日
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鑑賞方法:映画館

1979年、アメリカに亡命した韓国の諜報機関KCIAの前部長パクが下院議員聴聞会でパク・チョンヒ大統領が今までに行なってきた数々の不正行為を告発した。激怒した大統領はパクの後任の情報部長キムに事態を収拾するよう指示、渡米したキム部長はパクに接触するがそこで自身の与り知らぬ政治的な動きがあることを知らされ動揺する。

実録ドラマであるかのような緊迫感で暗殺事件が起こるまでの40日間をスリリングに活写したポリティカルフィクション。大統領とキム部長が酒席で交わす短い会話で二人の断ち難い友情を垣間見せているので、強大な権力を持つことで逆に誰も共感出来ない深い孤独感に苛まれる大統領の焦燥、純粋な愛国心と忠誠心があるがゆえに大統領の意に沿わない忠告も辞さないキム部長の苦悩に終始深い陰影が宿っています。大統領が自身の権力を誇示するために呟く犬笛が劇中で何度も何度も繰り返され、米国政府の干渉や自国政府内でのパワーゲーム、そして子供じみた嫉妬で男達が窮地に追い込まれていく様は圧巻で、冒頭で暗示される終幕から走り去るリムジンが照らし出すその後の顛末が鉛のように重いです。

自国の歴史の暗部も容赦なく描写してのける韓流映画の奥深さには驚異しかないですが、おまけ程度にしか登場しないワシントンやパリのロケにも短編映画でも撮影するかのような人材を投入し、40年以上前の空気感を精緻に再現することにも一切妥協がない点も特筆すべきところ。キム部長を演じるイ・ビョンホンと大統領を演じるイ・ソンミンが見せる張りつめた神経戦は場内を凍りつかせるかのように冷たく、特にイ・ソンミンは『目撃者』や『工作 黒金星と呼ばれた男』とはまた全然異なる人物像を体現していて、その演技力の幅広さに戦慄しました。

よね