「義憤というより私憤」KCIA 南山の部長たち shoheiさんの映画レビュー(感想・評価)
義憤というより私憤
コリアン・ゲート事件に関わっていたKCIAの前情報部長の存在を疎ましく思った朴政権だが、朴大統領を忖度した、イ・ビョンホン演じるキム情報部長が、前情報部長をパリで暗殺する。しかし、この暗殺を朴大統領は快く思わない。むしろ前情報部長が持ち逃げした米国での工作資金が戻ってこないことを嘆く。朴大統領のために無理をかつての同僚という馬謖を切ったというのに、その行為が評価されず、朴大統領は権力の維持することだけを考えるようになっている。ここがドラマの中心の線としてあるのだと思う。
キム情報部長は終始板挟みになっている。朴大統領を切りたいと考える米国側からの圧力。戒厳令を敷き民衆の鎮圧に血道をあげる朴大統領はキム情報部長と距離を置き始める。その中で戦車を街中に走らせるパフォーマンスで朴大統領の関心を引く警備部長。警備部長と情報部長の対立は青瓦台の中で銃をつきつけあうほどの激しさだ。
朴大統領暗殺事件は、中学生の頃の自分を驚かせたニュースだけれど、結局、その背景は判決通り、どろどろとした私憤と考えるべきだろう。未遂に終わったクーデタはどうみても、衝動的なもので綿密に計画されたものではなかった。朴大統領を娘朴槿恵の前で暗殺した後のキム情報部長のうろたえ方は尋常ではない。この辺はイ・ビョンホンの演技が非常に巧かったと思う。
この映画は、政治サスペンス映画と区分されるけれど、私は男同士の間にある愛憎の心理劇であると思った。朴大統領に暗殺に大義はない。情報部長として同僚だった前情報部長をを暗殺したことは、KCIAのトップとしての冷徹な裏仕事と言えたかもしれない。野党の政治家をしょっぴいて拷問にかけることもしている。しかし、その行為が上司に認められなかったことで、キム情報部長の行動も冷静さを失ってしまう。やはり朴大統領暗殺はどうみても私憤と言えるだろう。
前情報部長はキム情報部長に「オセロ」のイアーゴの存在を明かす。このイアーゴが大統領の資金洗浄に関わっていると告げるのだけれど、イアーゴはオセロ王を罠にはめて、妻に対する嫉妬に苦しめた人物である。最後にオセロは凶行に走るわけだが、このドラマはまさにオセロ的な嫉妬がうごめく内容になっているのだ思う。
イ・ビョンホンの苦虫をかみつぶしたような苦悶の表情の演技は非常に良かったと思う。また、朴大統領をイ・ソンミン(「工作」で北朝鮮側の幹部を好演)、前情報部長をクァク・ドウォン(「アシュラ」の検事役)という演技派が支えているのがいい。陰鬱なトーンの続く作品だが、最後の歴史的事実へのつなぎ方も、軍事体制の継承という陰鬱なオチとなっている。
「1987」、「タクシー運転手」、「工作」など、最近の韓国映画の政治サスペンスにハズレなし。