「難民問題に現代アートを絡めてみたら」皮膚を売った男 清藤秀人さんの映画レビュー(感想・評価)
難民問題に現代アートを絡めてみたら
シリア内戦の影響で祖国を追われ、恋人との関係も絶たれた男は、ヨーロッパ在住ビザを手にして、各地を渡り歩く。こう書けば実にハッピーな話なのだが、彼が手に入れたのは何と、背中に刻印されたタトゥのビザ。男の美しい広背筋に惚れ込んだアーティストが挑んだ究極の現代アートが、一旦は男にかりそめの自由をもたらすのだが。。。。。
しかし、買い手やキュレーターの意図によって動かされ、そもそも見せ物でしかないことにうんざりした男は、やがて、引き離された恋人と本当の自由を手に入れるために、とんでもない行動に打って出る。
シリア難民の現実をそのまま映すのではなく、軽々と国境を越えられるアートと越えられない生身の人間とをうまく対比させた挙句、想定外の結末まで用意した、これは難民問題を扱ったこのジャンルの画期的作品。何しろ、先が読めないストーリーはエンタメ的な楽しみすらある。
主演のヤヤ・マヘイニはシリア人の俳優で脚本家でもある。怒りと共にカメラを見据える眼差しは強烈で、姿勢によって変わる背中の表情と共に、しばらく忘れられない存在になりそうだ。
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