「カンフーアクションで押すのかと思ったら、以外にダークファンタジー色も濃い一作。」シャン・チー テン・リングスの伝説 yuiさんの映画レビュー(感想・評価)
カンフーアクションで押すのかと思ったら、以外にダークファンタジー色も濃い一作。
予告編を見る限りでは、主演のシム・リウの身体能力を生かしたカンフーアクション映画なのかな、と思っていたら、後半はダークファンタジーっぽい展開になってびっくり。
シャン・チーを演じたシム・リウはドラマでのキャリアはあるものの、劇場映画としては『パシフィック・リム』(2013)にエキストラで出演したことがある程度だったそうで、今回の主演は紛れもなく大抜擢です。本作の製作が発表された時に、ツイッターで出演をアピールしたり、抜擢が決まったときには喜びを発散させるようすを公開するなど、何とも役柄を彷彿とさせるエピソードが微笑ましいです。
唐突に始まる、『スピード』(1994)を彷彿とさせるような大型バスのアクションは、予告で見慣れていても圧倒されるようなすさまじさで、もしかしてこの調子で話が進むのかな、と思っていたところ、中盤は家族との交流もあってちょっとゆったり(後述の、トニー・レオンの影響?)。しかしそこから怒涛の展開になだれこんでいきます。
キョウダイの確執というテーマがちょっと『ブラック・ウィドウ』に被ったり、後半の舞台がまるで『ブラック・パンサー』(2018)だったりと、他のマーベル作品の要素をちらちらと垣間見えせつつ、後半は「おいおい、『エルデンリング』を先に体験しちゃったよ」と思うほどにファンタジーしちゃってます。このように昨今の映画の楽しめる要素を「全部盛り」にしたかのようなサービスぶりに加えて、香港映画で磨き上げたワイヤーアクションを多用し、華麗な舞踊のようにも見える見事な剣劇(静と動、殺気と愛情の交錯は、アン・リーの演出かと思った…)まで見せてくれます。特にミシェール・ヨーの動きは、『クレイジー・リッチ』であまり身体を動かせなかった鬱憤を晴らすかのよう。
ただ、殺陣の美しさと迫力は文句なしだけど、アニメとはいえ先行して公開された『白蛇:縁起』の印象がどうしても被ってしまう…。いや、もちろんどちらも素晴らしい内容なんだけど。
俳優陣も、スタント出身のシム・リウはもちろんのこと、『クレイジー・リッチ!』に続く共演となるオークワフィナとミシェール・ヨー、そしてシャン・チーの父親ウェンウーを演じたトニー・レオンなど、作品の特色を踏まえてアジア系俳優を多数起用しています。特に久しぶりにトニー・レオンのご尊顔を劇場で拝めたのは嬉しい驚きでした。実はトニー・レオンは自らの家族を愛するあまり、これまでのキャリアで父親役を演じることを避けてきたとのこと。そんな信念を抑えてでも出演しただけに、彼の演技、表情はなかなか胸に迫るものがあります。それが中盤の描写に繋がったのかな?
『ブラック・ウィドウ』のキャラクターがカメオ出演しているなど、見どころ多過ぎの本作で、ちょっと気になったのは言語の問題。時折中国語での会話が入るんだけど、非常に重要な場面で使われているのは英語…。もちろんディズニー配給の米国映画であることは理解しているんだけど、ここまで配役に配慮して、中国語の台詞も入れているのであれば、せめて大事な場面は状況に相応しい言語にしてほしかった…。『ラスト・サムライ』(2003)以上の違和感が残ってってしまったのは少し残念。
本作は11月公開の『エターナルズ』(クロエ・ジャオ監督)とも様々な要素が繋がっているとの情報も。今後も楽しみ!