「魅力的な毒気を持つ二人のヴィランが火花を散らす」クルエラ ニコさんの映画レビュー(感想・評価)
魅力的な毒気を持つ二人のヴィランが火花を散らす
70年代ロンドンのめくるめくファッションと、二人のエマのハマり役勝負で純粋にワクワク出来る作品。
エマ・ストーンの顔立ちは、以前はバランス的に目が大き過ぎると思うこともあったが(これはこれでとても羨ましいのだけど)、今回はクルエラのメイクと衣装がとても映えて惹きつけられた。初めてバロネスのパーティーに現れた時の黒いマスク越しの目力は、彼女だからこそ。
悲しい生い立ち、魅惑のルックスとファッションセンス、強い心を持つクルエラが、母の仇を討って形見を取り戻すため奮闘する。エステラとしてバロネスに弟子入りしデザイナーとして頭角を現すくだりは「プラダを着た悪魔」を連想させる。ヴィラン誕生秘話のはずが共感しかない、少女の成長と復讐の物語。
頑張れクルエラ!と見事に洗脳されてしまった。
そしてそんなクルエラの相手にとって不足なしの敵役、バロネスを演じたエマ・トンプソンは、さすがの存在感。
ファッション界の女王の貫禄、冷徹な悪としての強い信念を見せつけると思えば、エステラのデザインセンスをきちんと見抜いたり、9分の仮眠ですかさずキュウリパックをして愛嬌ある姿を見せたりと、クルエラに引けを取らない個性的なキャラが楽しい。
シーンごとにゴージャスな70年代モードの衣装を取っ替え引っ替えビシッと決めてきて、それがいちいち様になっているのもすごい。パンキッシュなクルエラのファッションを引き立てる役割も果たしている。
目に楽しいのはもちろん、分かりやすい筋立てとテンポの良さで、原作や最初のアニメ作品「101匹わんちゃん」の内容をよく覚えていなくても十分爽快になれる。
ファッション好きな人、ソーイングが趣味の人は楽しさが倍増しそう。
あえて気になった点を挙げると、クルエラはダルメシアンの子犬の皮を剥ぐ毛皮マニアで、それがヴィランとしての個性という印象がもともとあった。
今回そのアイデンティティは完全スルーだったのであれっと思った(むしろ仲間と犬を飼ってたりバロネスのダルメシアンを手なずけたりして犬フレンドリーな感じ)。
憶測だが、不快な悪人の話ではなく、共感出来る成長・復讐譚に仕立てられた本作に主人公が犬の毛皮を狩る描写を乗せると、今のご時世観客を選ぶ作品になってしまうという判断があったのかも知れない。
個人的にはそういう闇の深い描写も一興だが、やっぱりディズニーなのでそういうぶっ飛び方はしないということなのだろうか。これはこれで、誰にでも心置きなくお勧め出来るからOKです。
ちなみに、登場する犬には保護犬が多く、撮影後には里親に引き取られたそうだ。犬達のアクションは結構はらはらするものもあるが、もちろんCGエフェクトなので心配ご無用。