「眼で殺す」キャリー(1976) 因果さんの映画レビュー(感想・評価)
眼で殺す
噂に違わぬ良作だった。まず出だしからすごい。キャリーは更衣室のシャワーを浴びている最中に自分の下半身から血が出ていることに気がつく。我々はそれに対して「なんだ生理か」としか思わないし、実際彼女以外の生徒たちもそう考えるのだが、キャリーただ一人だけが違う。彼女は血を見るなり自らが全裸だということも忘れて半狂乱に陥ってしまう。
これによってキャリーという登場人物の抱える歪みの端緒が垣間見えると同時に、彼女が高校生にして「女性は定期的に股から出血する」という生理現象を知らない異常な環境に置かれていることが仄めかされる。言わずもがな後者は過激なカトリック思想に取り憑かれたキャリーの母親の存在の示唆だ。
また、ここでキャリーが素っ裸なのもいい。事態の深刻化に伴いヒロインの衣服が一枚一枚脱げていくようなホラー映画は多いが、それは要するに怖さの不在をストリップショーで穴埋めしているに過ぎない。そういう飛び道具に依らず、開始直後にヒロインの全裸を開陳するという本作の態度には、ホラー映画としての確かな自負と自信が表れている。
要するに本作の冒頭部はホラー映画の導入としてはこの上なく洗練されたシークエンスだったと思う。
その後はキャリーの置かれた生活環境とともに、彼女がそういった生活体系を離れ「普通の高校生」を目指していくまでの精神の変容が過不足なく丁寧に描かれていく。このパートだけは純度の高い青春グラフィティに振り切った本作の思い切りのよさに痺れる。
しかし肝心のキャリーブチギレシーンはその前後に間を持たせすぎていてかえって恐ろしさが減じてしまっていたように思う。画面をスプリットしたりスローモーションをかけたりと、確かに技巧的には面白いんだけど、それまでが割と真っ向勝負な映画だっただけに、誤魔化してるだけなんじゃないの?という印象が強かった。
とはいえキャリー役のシシー・スペイセクの眼力はすごい。これを真正面から撮ったカットさえいくつかあれば変に凝ったカッティングなんかそもそも必要なかったんじゃないかと思う。
キャリーの母親が懺悔室のキリスト像と全く同じ位置に傷を穿たれたまま絶命していくシーンはかなりよかった。記号的符号を映像の中に埋め込むのは簡単だが、それをお節介にならない範囲で受け手に気がつかせるのはけっこう至難の業だ。そのあたりの出力の調整が上手いな〜と感心した。
キャリーの最期に関してはちょっと自罰的すぎるんじゃないかと思った。あれだけ酷い裏切りを受けてなお土の中に沈んでいくという形で自ら死を選んだ彼女の精神の根底には、やはりキリスト教的な奉仕意識が強く根付いていたということなのかもしれない。思えば彼女の超能力もまた、他ならぬ自己抑圧の産物だった…