「挑発と過激と強さと美」ヘルムート・ニュートンと12人の女たち talismanさんの映画レビュー(感想・評価)
挑発と過激と強さと美
ドイツ、ユダヤ、ベルリン、表現主義が丸ごと入っている写真の数々。強い女、強い視線、すくっと立つ長身の女。ブロンドでも決してバカでなくて、挑発する眼差しと爪と自信と生意気の塊の女達。なんてかっこいいんだろう!ヘルムートだな、と思う。媚び、幼さ、か弱さ、子どもっぽさ、可愛さなんてモデルに絶対に求めない、だって退屈だもん。
でも、リーフェンシュタールが出てくるとは思わなかった。ヒットラーと犬の写真…これも想像だにしなかった。驚いた。ヘルムートの写真観と自由でユーモアがあるスタイルに揺さぶられてしまった。凄い。
昔、アラーキーの写真展がドイツのVolkswagenのお膝元の町で開催されたとき、女性蔑視!と反対運動が起こった。館長(男性)が色々弁明していたが説得力なかった。この映画でインタビューを受けていた、アナ・ウィンターやシルヴィア・ゴベルが館長だったら全く別の方向に行ったと思う。その頃開かれてたジェンダー関連のシンポジウムでも、殆どの女性(日本人)がアラーキーにはシンパシーを感じると言っていたことを思い出した。
ヘルムートって、愛嬌があってユーモアたっぷりで優しくて可愛い人なんだ!全然知らなかった。予告編の最後で「関心があるのは女性の顔、胸、手足。心?そんなの知ったこっちゃない」と言ってたので、怖いおっちゃんかと思っていたので、気持ちよく裏切られた。
シャーロット・ランプリングは映画「愛の嵐」のあとにヘルムートに出会ったのかー、ハンナ・シグラが丸っこい(ドイツ的)おばちゃまになっていてかなりショックー、イザベラ・ロッセリーニとウィンターとゴベルの説明と解釈凄くいいー、頭いいー!スーザン・ソンタグだけはヘルムートの写真に批判的だったな。彼女の『写真論』昔読んだけど忘れちゃった。難しかったから。
ヘルムートは上流階級のお坊ちゃん!そういう出であることが、屈託の無さとか愛嬌とか外見とかポジティブな生き方とか確信犯的に枠にはまらない自由さですぐにわかってしまう!怖いけど本当にそうだ(オノヨーコもそうだ)。そのいたずら坊や或いは悪ガキのヘルムートと妻のジューンは補完しあういいカップル。
ヘルムートがイームズのラウンジチェアに腰掛けて寛いでいる写真、男は撮りたくないからと、テーマである男のトレンチコートを自分が着て女を撮影しているところを撮らせてヴォーグに載せた写真、とても好き💕
あ、そう書き忘れていた。映画で使われている音楽が、ヘルムートの写真の濃厚さを、ヘルムートの審美眼の基盤になったベルリンの20年代を彷彿とさせてすごく良かった。前者はリベルタンゴ、後者はDas gibt's nur einmal.