劇場公開日 2020年12月25日

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「美しい背景が人の残酷さを際立たせる」FUNAN フナン 杉本穂高さんの映画レビュー(感想・評価)

4.5美しい背景が人の残酷さを際立たせる

2020年12月31日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

カンボジアのクメール・ルージュの大量粛清の時代を生き抜く親子の物語をアニメーションで描いた力作だ。物語は1975年4月から始まる。首都プノンペンの陥落を知らせるラジオが流れ、まもなく田舎の村の住民も強制労働のために農地に送られることになる。小さな息子と離れ離れになってしまった両親は必死で息子を探そうとするが、過酷な労働に追いやられてしまう。
美しい田園風景と非人道的な強制労働の強烈な対比が印象的だ。人間の行いは醜い、しかしそれとは無関係に自然は美しい。塚本晋也監督の『野火』も人間は餓死寸前なのに自然が美しかったことを思い出した。
カンボジアは、かつて東南アジアの映画大国だったそうだ。クメール・ルージュの粛清によってカンボジア国民の4分の1が失われ、映画人などの文化人も数多く殺され、歴史が失われてしまった。フランス資本のカンボジア映画というとリティ・パン監督が有名だが、こうして新たな世代が自身のルーツに目を向ける作品が生まれていることは頼もしい。

杉本穂高