「予想を遥かに超えて楽しめたミュージカルアニメーション」アイの歌声を聴かせて といぼ:レビューが長い人さんの映画レビュー(感想・評価)
予想を遥かに超えて楽しめたミュージカルアニメーション
他の映画上映前に流れている予告編を観ても正直そんなに興味をそそられなかったんですが、実際に公開されると、これがめちゃくちゃ評判が良い。しかも、普段から映画を観ているような映画ファンからの評価も非常に高く、正直予想外でした。その高い評価に押されて遅ればせながら鑑賞しました。
結論、めっっっっちゃ良かった。予想の遥か上を行く最高のミュージカルアニメーションでした。「予告編だけ見て映画の評価を決めてはいけない」というのは『羅小黒戦記』と『花束みたいな恋をした』で学んでいたつもりだったのに……、迂闊でした。
AIのシオンと、それぞれ何かしらの悩みや葛藤を抱いている高校生たちを描いた青春群像劇。AIロボットなどの近未来的なSF設定が多くあり、その描写も結構観ていて面白いですね。映像が何より素晴らしいし、作画も良くてキャラクターたちがぬるぬる動く。ミュージカルシーンのリップシンクも完璧。意外と序盤から細かい小ネタや伏線が散りばめられているところからも、ストーリーがかなり練りこまれて作られているのが伝わってきて感動しました。
こんなに面白い映画なのに、なんかイマイチで盛り上がってない印象ですね。アニメファンと映画ファンの中でだけ話題になってて、『鬼滅の刃』や『竜とそばかすの姫』と比べると普段映画を観ない層へ全く浸透していないように感じます。こんなに丁寧に作られていてエンタメ性も高い映画なんだから、もう少し話題になってもいい気がするんだけどなぁ……世知辛いのじゃ~。
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世界的IT企業の星間エレクトロニクスの敏腕研究者を母に持つサトミ(福原遥)は、真面目な性格や過去に起こしたトラブルで”告げ口姫”というあだ名をつけられ、クラスの中で浮いてしまっていた。ある日、偶然に母親の「人工知能(AI)を搭載した人型ロボット」の研究資料を発見する。サトミが通う高校に転校してきたシオン(土屋太鳳)がその人型ロボットであった。サトミの幸せのために行動するシオンによって、サトミやクラスメイト達との関係にも変化が生まれてくる。
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某レビュアーさんが「ミュージカル映画にありがちな『突然歌いだす違和感』を、シオンが『ポンコツAIであるが故の違和感』と結び付けて描いているのが良い」とおっしゃっていて、「なるほど」と納得しました。「突然歌いだすのはおかしい」というのはミュージカル映画にはありがちな批判ですが、本作ではシオンが突然歌いだすことに対して他のキャラクターたちも違和感を感じており、それ故に人間とは異なるAIのシオンの常識から逸脱した思考が読み取れるようになっています。
ストーリーも非常によかった。クラスメイトたちがそれぞれ抱える悩みや葛藤がシオンの活躍によって解消されていくという群像劇のような内容になっており、これが青春モノとしても非常に楽しめます。青春群像劇の勘所をしっかり押さえた間違いない内容になっています。尚且つ伏線回収などの要素もあって、脚本がしっかり作りこまれているのが分かります。
そしてアニメ映画の重要な要素でもある「作画」。これも本当に良かったですね。
特にミュージカルシーンでは歌とキャラクターの口の動きのシンクロ(リップシンク)が完璧であるが故に観ていて気持ちが良いんです。ディズニーミュージカル作品などではこのリップシンクが綿密に作りこまれていて、これが観客の没入感を促進させていると思うんですけど、本作もそこはかなりこだわって作画されていたように見えました。
そして声優も良かった。
現代のアニメ映画はどうしても主演キャラクターたちがテレビで活躍している俳優さんや女優さんが演じることが多く、本作も例に漏れず土屋太鳳さんや福原遥さんなどの旬の俳優さんがメインキャラを演じています。プロの声優じゃないので「声合わないな」と感じて映画鑑賞のノイズになることも多いタレント声優の起用ですが、本作に出演されていた方々は皆さん演技がお上手だったので全く気になりませんでした。パンフレットを読むと「収録時には参考としてプロの声優さんが演じた音源が準備されていた」と土屋太鳳さんがインタビューで答えていたので、それが演技に大きく影響したんじゃないかと思います。
本当に素晴らしいミュージカル映画でした。こういうこだわりが見える映画は大好きですので、もっとたくさんの方に観てほしいですね。オススメです!!!!!!!!