「科学も奇跡もジュブナイルもモリモリの一作」アイの歌声を聴かせて S.i.v.aさんの映画レビュー(感想・評価)
科学も奇跡もジュブナイルもモリモリの一作
2回目ですが、こんなにまとめるのが大変な映画は初めてかもしれません。
まず何よりも真っ先に素晴らしいのが土屋太鳳さんの演技、歌声。
あくまでも彼女は芸能人なんですが、タレントさん特有の声の違和感や演技の不足感と言ったものが少なくともこの映画には感じなかった。
しかも、曲も歌ってるらしく、そんなあくまでも芸能人でしょと思ったらとても上手い。
ぜひ土屋さんには今後もアニメの出演を希望したいくらいに素晴らしかった。
構成も吉浦監督作品らしく、窓口は決して広くないものの話の中の違和感や意味のない伏線もなく、それぞれがきちんとキャラ立ちされた話運びで素晴らしかった。
シナリオライターの人の手腕もありますが、昔から、それこそペイル・コクーン時代から吉浦監督は話の無駄がなく堅実な作家さんで在らせられますから、新海誠監督のような二人の行動が世界に影響を及ぼすといったものはないけれど、骨太できちんと意思を持った行動が感じられて生きている感じがして好きです。
今回は2回目の鑑賞ともあってだいぶ話が頭に入ってきてくれて、シオンの行動原理や話の中にある小道具がこう生かされているのかと本当に感動しました。
キャラクターがそれぞれ抱えている悩みを、シオンがサトミを幸せにする名目で助けて行き、それを受けて皆でシオンを救うシナリオもここ最近になかったジュブナイルのエッセンスも入っていて、嬉しかったです。
最近はシナリオの世界観がどうしても壮大になり、どうしても一般人の登場人物を活躍させるシナリオ運びが難しくなってきている時代に思えていました。その中で監督はしっかりあくまでも一般人の範疇でキビキビと動かしていて、吉浦監督は素晴らしいものをお作りになると感銘を受けました。
また、ネタバレになりますが、劇中でメガソーラーをシオンが動かして、空を反射させて投影させる事でまるで地上に湖面が出来たかのようなミュージカルシーンは、科学を魔法に変えた、正にサイエンス・ファンタジー=SFと言う言葉が頭によぎるほど完成度の高い演出だったと思います。
こういう発想は頭の硬い人は出来ないでしょうし、恐らくかなり会議があった中のアイデアだったのだろうと思われます。
特にあくまでもAIやバーチャルの世界ではなく、現実世界で表現されている所がここ最近のアニメの中でも違う点だと思います。
素材が多く与えられている中の敢えて制限されたフィールドで考えられた演出は、昔のゲームにおけるドット絵の発想に近いですね。
ミュージカル特有の唐突に始まる違和感も、シオンが何故歌うのかをきちんと行動原理も描いてくれてるので、そういう意味でもスッキリします。
また、今作には岩浪音響監督も関わっておられて、あ、これはもしかしたらウシオシアターで流れてるかもと思ったのですが、残念ながらそこは違ったものの、音響キャリブレーション済みのものが聞けるというので早朝に起きて姫路に観に行きました。
スクリーンもさながらオーディオはまるで、最初に見た映画館とは別物で一粒一粒が際立って粒状感のある音が部屋全体に散らばるさまは流石監督チューニング。
毎回電車で朝早くから行きますがこれが聞けるなら鑑賞と往復で5000円以上の交通費は高くありません。
残念なのは、これは仕方ない事かもしれませんが前半と後半で作画の原画が違うこと。
また、絵柄での演技が足りていないと思う箇所がしばしば見られます。
中盤で3曲目を歌うシーンの辺りから一気にキャラのタッチが変わったように感じられて、そこまでの作画の動かし方が明らかに違います。
特に終盤では作画の枚数も多く、1枚絵のタッチもかなり違い、これはもしかしたらコロナの兼ね合いでそうなった可能性も有り得ます。
ただ、息切れをして声がハアハアと言っているのに作画が動いてなかったり、バスの中でキャラが並んでいる時に背景と作画のパースが違ったりなど、細かい所で監督の指示が行き届いていないようにも見受けられます。
4曲目のミュージカルシーンでも、空の花火の落ちていく残り火がシオン達が登っているメガソーラーの基地局?の手前に青い光がが落ちていて、オイオイ死人が出るぞとツッコミを思わず入れてしまいました。
これは悲しいかな、アースシネマズ姫路の3番スクリーンの映像がキレイだったから余計に目に入ってしまいました。
主に全体の細かな作画は残念でしたが、それ以外の演出、キャラ立ち、シナリオ、音楽は大満足です。
また関西ではこの岩浪監督チューニングの鑑賞がこの兵庫でしかお聞きできないのか非常に勿体ないですが、何にせよ是非とも大垣スクリーンで流れているシアターで観られるのをオススメしたいです。
絶対テレビで見たらもったいないです。
最後に。
下にある印象の所は、いつもどんな感情だったか思い返すのですが、今回は絶対に外せないワードがありそれを速攻で選びました。
この秘密は、最後までとっておくものですよ、と言うシオンのセリフを元にした言葉で締めくくりたいと思います。