聖なる犯罪者のレビュー・感想・評価
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赦しへの迷宮
犯罪者だからこそ救える魂もあるのではないか・・・様々な疑問を自分に問うことになるずっしり重いドラマ
少年院に服役中のダニエルは信仰深い少年で出所後は聖職に就きたいとトマーシュ神父に打ち明けるが前科者には無理だと諭される。晴れて仮釈放となったダニエルはとある村にある製材所に勤めることになるがすぐに逃げ出してしまう。ダニエルが辿り着いたのは村の教会。そこで他の教区から派遣された司祭だと名乗ったところあっさり信用されて教会の司祭代行を引き受けることになってしまう。スマホを駆使して見様見真似でどうにか司祭の仕事を始めたダニエルは、村中がこの土地で起こった交通事故の悲劇の記憶に苦しんでいることを知り彼らを救済しようと試行錯誤を始めるが・・・。
R18+なので物語の冒頭から冷たく陰湿な暴力が繰り広げられます。少年院という閉ざされた世界における宗教がどのようなものかをしっかり見せているので、ダニエルが製材所に勤めることを拒否したことにも納得できるように誘導されますが、一方で仮釈放後の無軌道なダニエルの言動に対する嫌悪感も隠さないので司祭を装ってからのダニエルの振る舞いをどう受け取ればいいのか困惑させられます。その不安定な感触は因果応報と曇天の切れ間から差し込む日光のような救いを伴った終幕まで緊張感を伴って持続され、善き行いとは何か、この世界に贖罪はあるのか、人々の悲しみや怒りを聖職者は受け止められるのか、といった様々な疑問をエンドロールを眺めながら噛み締めました。
同じ題材をハリウッドで映画化したならハートウォーミングなコメディになってしまいますが、ポーランドではこんなずっしりと重いドラマになってしまうところが大変興味深いところ。主演のバルトシュ・ビィエレニアが瞳をかっと見開いた瞬間に弾ける渇いた狂気がこの映画の全てといっても過言ではないくらいに印象的。忘れ難い強烈な余韻を残す作品です。
やはり目ですね、俳優って、演技って
決まりは決まり
優秀な制作陣
なかなかスリリングでした
スタイリッシュな映画
内容は、真実は何か、赦すことの難しさ、罪を犯した者がなれない職業とは何なんだろう(カトリック聖職者による子どもへの性的虐待を隠蔽する権力構造はどうなるんだ?!)、田舎の人々の偏狭さなど、考えさせられること満載で「面白い」。
一方で、ヒリヒリする音楽や小道具(タバコ、クスリ、司祭服、ウオッカ、タトゥー、スマホ)、窓の役割(ダニエル最初は逃げようと思ったが開かない!次はそこから逃げた。カーテン向こうに人が居て外の様子は気になって見ているがカーテン閉める)がとても効いていて、映像の美しさ(教会がある町の風景)、ダニエル=トマシュ司祭の顔アップの多用と彼の目の素晴らしさ、最後の「決闘」のカメラぶれ、そしてラスト!映画として凄くスタイリッシュでかっこいいと思った。
嘘が本当になる瞬間
赦すことは忘れることではない
実話だという。
主人公は聖職者に憧れているものの聖人とはとても言えない普通の前科者。
主演俳優は少し老けていて19歳の少年には見えないが、何とも言えない冷血な目と、時に温かい眼をする。
一見善良な人にも残酷な部分があり、また一方で罪を重ねてばかりの人間にも信仰心があるのだ。
罪を償ったなら元囚人が神父になったっていい!
神の名の下に…
『赦し』という概念は、世界のすべてを見ている神(中国の思想からの流れで言えば〝天〟と言い換えることもできると思います)のような超越的存在を意識しながら思索する習慣の乏しい日本人にはとても難しいテーマだと思います。
事件や事故の犠牲者の遺族という立場に置かれた者が、〝加害者〟と見做された人に対して、赦すとか赦せないとかを口にするのは、どこかに現実社会における優位的な人間関係(加害者=赦してもらう側の負い目、被害者遺族=赦してあげた側)を引きずってしまい、後味が悪い。ましてや、そこに認識とは違う真相があるかもしれないとなれば、尚更だ。
しかし、信仰心を背景に説得力のある『神の導き』(神の名の下の赦し)であれば、現実社会での人間関係から生じる感情を一旦離れて受け入れやすくなる。
もちろん、生身の人間である以上、何かのキッカケでまた、恨みや復讐心のような負の感情が湧いてくることもないとは言えないが、一度神の名の下で赦した自分のことを思い起こせば、相手との関係でなく、自身の心との対話にでき得る。神父への告解は、そんな揺れ動く自分の心の調整機能を果たしてくれる。
神父という属性(聖職者)を剥がされた人間(ダニエル)の言葉は、日本のような社会ではたちまち説得力を失うことになると思うが、教会という聖なる場所で発せられたダニエルの諸々の言葉は神のなせる術だったのだ、とミサの場にいた人たちの多くが思うことで説得力が失われずに済んだのだと私は思います。
無力だと祈ることすら無力じゃない
僕の好きなアーティスト「amazarashi」の『祈り』という曲に、こんな歌詞があります。
僕らは無力だと 暗闇に祈るのが 本当に無力とは信じないぜ
この曲自体は、東日本大震災を受けて作られた曲です。電力が不足し、津波で街が流され、僕たちにできることはないだろうかと考えたって、そんな力も持ち合わせていない。でも、何かしたいという気持ちはある。それだけでも救いがあるのではないかという歌詞です。この作品も実際のところ聖職者になりすましているわけで、スマホでやり方を検索したり、自分で見様見真似にやってみたり、従来の形とは違う己を啓発するような他者を批判するような言葉を並べたりもする、それでも救われている人は確実にいる、このなりすましは善なのか悪なのかと言われれば善のようにも思えるなあ…という不思議な余韻の残る作品でした。
「パラサイト 半地下の家族」を楽しんでみた者として、アカデミー賞を争ったこの作品にも興味を持ちました。監督の前作Netflix映画「ヘイター」は観ています。(https://eiga.com/movie/93752/review/02472561/) 前作と今作どちらもポップな露悪性を描くことに優れている監督だなと思いました。前作よりもセリフ量自体は減っているはずなんですが、光と暗闇の演出の使い分けや、カット割りのメリハリなどがすごく上手くて惹きつけられる魅力がある二作です。
じゃあどちらのほうが好きかといえば、僕は今作のほうが好きです。もともと宗教を描く映画というのは難しいと思っています。昨年公開の作品「星の子」も評価が難しいなと感じました。(https://eiga.com/movie/92245/review/02416543/)要は、信仰は否定されるものではないという前提があるんですよ。それは自分もよくわかってて。主観と客観で視点を定めるのが難しい。どうしても。
主人公のダニエルは、幼き頃に犯した犯罪がきっかけで少年院に収容されていて、冒頭から包丁のような剣のようなもので作業するシーンから始まり、その後いわゆる礼拝のシーンに続いていくんですけど、この動と静の使い分けから主人公がどっちに傾いているのか分からない作りになっている。いや、何かのきっかけで傾きなおす可能性もある危うさを放っている。掴みから素晴らしかったです。
その後、仮釈放のような形になるんですが。釈放の際に「絶対に酒や薬をやるな」と念押しされるんですが、すぐにやっちゃってるんですよ。うわ~やっぱ闇の人間なんだと思ったら、信仰心だけはどうやら本物のようで。この脆さこそ本作の魅力。
たまたま寄った礼拝堂で知り合った女性がきっかけで、偽りの聖職者として過ごしていきながら、この町が背負う悲しみを振り払う役割を担い出します。結末はネタバレになるので避けたいと思うんですけど、ダニエルは別に町が背負う悲しみ・出来事に対して別に向き合わなくても良いんですよね。言うならば部外者ですから。それでも真相を知りたいと一心不乱に行動することが、自己内省とリンクしていて興味深かったです。
舞台となるポーランドでは、こうした聖職者を偽るという現実が当たり前のようにあるとのことです。聖職者になる高学歴な人間より言葉や人柄に親しみを覚えやすいとか理由は様々にあるらしいんですが、結局「信じる」っていうのは当人でしかわからない価値基準のもと動いていて、もう客観性なんて奪われてしまうんだろうなと思いつつ、確実にその人たちの人生は好転していくところが、言葉を選ばず言えば不義理だなあとしみじみしました。キングコング西野さんの映画チケットを複数枚買って大借金を抱えても当人にとって幸せならしょうがないよなあとか、周りはみんながやめておけという相手と結婚する人とか、"宗教"という言葉を使わなくとも"信じる"という行為自体は普遍的に危うさを抱えているんだと改めて思いました。
主人公ダニエル演じる役者の眼力にとにかくやられます。非常にいい作品です。
偽りの町、偽りの聖職者
前科がある為司祭になれない19歳の少年が、身分を偽り司祭として活動する話。
少年院仮退院で働く製材所のある町の教会を訪れ、自分は司祭であると偽ってしまい、あれよあれよとその教会の司祭代理に祭り上げられ巻き起こっていく。
主人公が訪れる1年前の事故に纏わり、険悪なムードの漂う町で、住民の告解を受けたり、彼なりの説教を説いたり。
そして事故に付き纏う闇を正そうとしたり…身バレ直前の説教は痺れたなぁ。
確かに偽りの存在だし、決して敬虔な訳ではないけれど、彼の行動や思いは偽りではないし、「 誰も傷つけてはいない」と自負出来るもの。
宗教や信仰に纏わる話だし、決まりはあることなので正解ではないのだろうけど、本質は何だ?と問われるストーリーがとても良かった。
神との対話
司祭に憧れる主人公ダニエルが少年院を仮釈放され、ある村で司祭になりすまし、聖職者として村で起こる問題や傷を負った人々と向き合う物語。
前科者は司祭になれないと言われるが、ある偶然が重なり、司祭として活動することとなったダニエル。神学校を出ていない彼は最初は戸惑うも、持ち合わせた信仰心を頼りにミサや告解をどうにかやりきり、村人からの信頼を得ていく。
村では昨年、1人の中年男性と6人の若者の自動事故があり、悪者とされた中年男性の妻が村八分にされている。
犠牲者の妹、マルタの証言により、事故の真実を知ったダニエルは聖職者として村人たちの問題を解決しようと奮闘するが…。
ストーリーとしては、若者の遺族たちと、悪者とされた男性の妻の間の問題を解決しようとする姿と、偽った身分がバレてしまうかといった点を軸に物語が展開される。
司祭となっても酒やドラッグをやめないダニエルだが、教会にいるときや事故の遺族たちと関わるときだけは、立派な聖職者の顔に。
真実を知るかつての恩師。憤慨するも、村人たちからのダニエルへの想いを知ったとき、いったい何を思っただろうか。
ダニエルの行いは決して許されるものではない。
それでも、彼がこの村に残していったものは間違いなく大きい。
ダニエルの真実を知っても尚、去り際の彼にかけられた言葉…。
嘘と真実がテーマになっていると言っても良い作品だが、許されない嘘が大きな救いをもたらすこともあるということか。そして、ダニエル自身は赦されるのだろうか。
非常に深みのある作品だった。
一方で、ヒロインやその母親、村の有力者や遺族たち、少年院生達やそこの司祭…等々、多くの人物が登場するが、みんな要人と言える立ち位置だがあまり掘り下げられていない者も多く、ドラマとしてはもうひとつ響きが欲しい所。
ラストシーンも、自分にはちょっと理解できず。。あれはどういうことだろうか?
きっと見たままの画に意味はないのかな。もっと大きなメッセージが潜んでいそうです。
観るたびに色々な解釈が生まれそうな映画だった。
ガツンとくるラスト
神父になりすましたダニエルは、7人もの犠牲者を出した交通事故の遺族の心を救っていくことになるが、遺族に寄り添っているときのダニエルと、激しい曲を聴きながら紫煙を吐き出すダニエルとのモードチェンジが激しい。
俗なダニエルは、どこにでもいそうなヤンチャな若者って感じだが、聖なるモードになるとカリスマ性を持った宗教家として村民の心を癒していく。
ストーリー上、いつかは嘘がバレる時がくる。それが破滅的なエンディングになるのか、救いのあるエンディングになるのか、中盤あたりから緊張感を保ちながら鑑賞していたが、二段構えで重量級のパンチがガツンときた。
感動するような作品ではないが、重い余韻に浸ることができた。
カトリックだから懺悔じゃなくて告解ですよ。
予告とは別な印象
【赦しとは】
終始、ダニエルの眼光と向き合うことになる。
「赦すとは忘れることではない。
赦すとは愛することだ。」
カトリックの赦しを、つまり、愛することだと理解できなくとも、赦しとは忘れることではないだろうとは思う。
では、赦しとは何だろうか。
この映画は、実際にあった事件にインスパイアされた作品とのことだが、少年院を仮釈放になったダニエルが司祭として傷付いた村人を癒やそうとするストーリーをフレームワークに、赦しとは何かを考えさせるものだと思う。
交通事故で子供を失い、同時に亡くなった運転手はおろか、その妻さえも赦すことが出来ない村人。
忘れようと努めても、怒りや悲しみを忘れることは出来ず、そこには赦しもあるはずがない。
「ここに(村に、そして、教会に)、いなかったことにしろ」と迫られるダニエル。
「(決闘で相手をぶちのめした後)ここに、いなかったことにしろ」と迫られるダニエル。
「いなかったこと」は、忘れることと同義ではないのか。
いなかったことにして、赦されるわけではないはずだ。
信仰とは、ある意味、矛盾かもしれない。
仮に神が赦しても、社会は赦さないかもしれないのだ。
仮に社会が赦すことがあっても、それは、その人が忘れ去られるということかもしれないのだ。
「赦すことは忘れることではない。
赦すことは愛することだ。」
神は、結論を示すが、道筋は示さない。
ダニエルが序盤に言う「(神に)評価するのではなく、理解して欲しいのだ」とは、重要なポイントだ。
僕達も、社会も、本当に赦そうと思うのであれば、実は理解しなくてはならないのではないのか。
教会のミサで、列席するように促された運転手の妻は、理解してもらって、赦されたのだ。
神が赦すとは、そういうことなのだ。
そう、人々が理解し、赦すということなのだ。
僕達が道筋を見つけないとダメなのだ。
その努力をすることが実は信仰なのではないのか。
忘れることや、「ここに、いなかったことにする」ことで赦されるわけではないのだ。
思考を要求する重厚なストーリーだ。
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