AK-47 最強の銃 誕生の秘密のレビュー・感想・評価
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最高のプロパガンダ映画
ミーシャことミハイル・カラシニコフは、追放農民出身の戦車軍曹です。
初めてのモスクワについウロウロと辺りを見回してしまい、女性とのダンスの踊り方も知らず、スープの飲み方だって背を丸めて犬食いしてしまう、まるで垢抜けない青年。そんなミーシャが純朴さだけで銃を設計し、ついに史上最高の自動小銃AK47を発明してしまう……というお話です。
細部が非常によく描写されている映画だな、と感じました。
スターリン時代のソ連は、気を抜けばいつ秘密警察に密告されてしまうか分かりません。その上、共産主義国家特有の官僚機構がミーシャの行く手を遮ります。実際に彼の兄も秘密警察に逮捕され、護送車両に乗せられています。
また、ミーシャは学歴などまったくない、ただの発明家です。手先は器用で斬新なアイディアも持っているけれど、専門的な教育を受けたわけではないため製図が一切できないという欠点があります。そのあたりも作中できっちり説明しています。
そんなミーシャの人物像や実際にあったエピソードが、それぞれ丁度いい尺で丁寧に描かれています。そしてミーシャの行動や性格は、どこか『フォレスト・ガンプ』に共通するものがあります。そういえばミーシャもガンプも、「農村部出身」ということでは共通しています。
ミーシャは穏やかで、好奇心旺盛で、極めて純粋な男。それは間違いありません。この人は晩年、日本から来たジャーナリストや萌系ミリタリー雑誌の編集者を自宅に招待したりもしています。敵国の銃器技術者ユージン・ストーナー(アーマライトAR15・M16の開発者)とすぐに友情を築くことができたのも、ミーシャの純朴さがあったからに他なりません。
ただ、やっぱりこの映画はロシアのプロパガンダ映画です。
農村出身の純朴な男は、それ故に都会育ちの人間よりも不器用です。年老いた際につきまとう「孤独故の哀愁」や、自分の人生の中で行ったことに対する後悔を紛らわせるのが苦手です。実際のミーシャは、AK47が世界各国の紛争の種になってしまったことを悔いていました。外国のジャーナリストに「私は銃ではなく芝刈り機を作っていればよかった」とほのめかしていたことは有名ですし、ロシア正教会のキリル総主教に告解の手紙を出していました。
もちろん、ミーシャに非は一切ありません。彼は祖国を守るために銃を作ったに過ぎません。ところが、いや、それ故に純朴で真面目過ぎるミーシャは、ひとりでに湧いて出る後悔の念を適当な道楽や気楽な余生で中和するということが一切できなかったのです。彼が酒に逃げたという話も一切聞きませんから、もしも生まれた時代が中世なら修道士か神父になっていたほどの潔白さを持っていたのではと思います。スダエフの冗談を真に受けてしまうシーンにも、それが現れています(この映画の制作陣は、ミーシャの性格をよく理解していますね)。
しつこいようですが、そのせいでミーシャは他の誰よりも「老いの悲しみ」に押し潰されていたはずです。これがピカソみたいなスケコマシジジイだったら、そんな心配なんかする必要はありません。敢えて強調しますが、純粋真っ直ぐなミーシャはそれが全っっっっっっ然できなかったんです!!!
映画にはそのことが一切描写されていません。AK47を装備した兵士と対面して祖国万歳、という終わり方です。
「老いの悲しみ」は「愛国心」や「祖国への貢献」などとは比べものにならないほど重いものなのに、やはりプロパガンダ映画である限りはそれが描けません。
故にこの作品は「最高のプロパガンダ映画」と評価するしかありません。
新しい自動小銃の発明者を珍しく?主人公に据えたロシア映画
第二次世界大戦後、ソ連その他世界で広く使われた自動小銃AK-47の設計者ミハイル・カラシニコフの自伝的な映画。本人(ユーリー・ボドロフ)及び仲間の軍隊経験からナチスを倒すために新しい銃を造ろうとするのだが、完成前に終戦になってしまうのが悲しい。また何度もコンテストに挑戦するも、優勝出来ず量産化に至らないのにはリアリティを感じた。
主人公は学歴無く、設計図も全く書けず。それを描いてくれたオルガ・ラーマン演じる女性技師(未婚の娘持ち)と取って付けた様な恋愛模様替と思ったが、何と事実らしい。また、学がない人間が、世界中で愛用される様な傑作小銃を産み出すのが、面白いところ。そして、ソ連がその学無き天才を国家的に、チームを作ってしっかりとサポートするところに驚かされた。残念だが、日本の武器設計よりも、ずっと上か。そもそも、零戦とかは別にして、こういう武器設計者のサクセスストーリーは皆無で、日本の銃器設計は殆ど重要視されてなかった?
後に、このAK-47、もしくは類似銃がテロリストに愛され、多くの罪なき人間の命を奪ったらしく、長生き(94歳で死去)したカラシニコフはそのことに大きな苦悩を覚えたらしい。
コンスタンティン・ブスロフ監督による2020年制作のロシア映画。
脚本はセルゲイ・ボドロフ及びアナトリー・ウソフ、撮影はマキシム・シンコレンコ。
出演は、ユーリー・ボリソフ、オルガ・ラーマン、アルトゥール・スモリアニノフ、
マクシム・ビットゥコフ、バレリー・バリノフ、ビタリ・カエフ。
シンプルゆえの
人生の選択が切ない。
冒頭、防衛の前線に送り込まれた戦車兵カラシニコフの果敢な戦闘。向かってくる敵と直面し、信頼できる武器が欲しいという想いが強まる。彼は前線にいたからこそ、仲間を失い、信頼できる小銃器を実現させたいという願いが強まった。
ところが、本編中盤、そのときの経験や想いではなく、幼少時の記憶しか登場しない。これが薄寒い。カラシニコフ本人というより、人間誰しもが持つ知的興味や捕食者的な一面だ。家族を愛し、仲間と協力し合える面を持ちながら。
実に人間的。そして、登場する多くの人々がたくましい。
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