ベイビー・ブローカーのレビュー・感想・評価
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社会的弱者が支え合う単位としての疑似家族と、見上げ追いつこうとするアウトサイダーの視点
そのフィルモグラフィでほぼ一貫して“家族”を描いてきた是枝裕和監督が、前々作の「万引き家族」に続き、分かりやすい疑似家族を題材に選んだ。ソン・ガンホが演じる借金苦のクリーニング店主サンヒョンは、児童養護施設出身で赤ちゃんポストのある施設で働く青年ドンスと手を組み、ポストに置き残された乳児を裏ルートで養子を求める親に販売して稼いできた。ところが若い母親ソヨンが一度ポストに預けた子を取り返そうと戻ったことから、大人3人と乳児、途中から養護施設の少年も加わって奇妙な5人組の“赤ちゃんを売るドライブ旅行”が展開する。彼らは格差社会の底辺近くにいる弱者であり、苦しさゆえに赤子をお金に換える目的のために行動を共にするという悲哀に満ちた旅でありながら、自然と彼らの間に絆が生まれてくるのは「万引き家族」に通じる要素だ。
そして、彼らを尾行する女性刑事2人組という外部者の視点を配し、ロードムービー形式にしたのは、是枝監督が韓国のスタッフとキャストで製作した韓国映画であることと無関係ではないだろう。外国を訪れて異邦人の立場になったとき、その国を旅して巡りたいというのは自然な欲求だ。見たことのない景色を見たいというのももちろんあるが、移動することで現地の人々と出会い、交流し、その暮らしぶりに触れることもまた旅の醍醐味と言える。是枝監督もまた、キャラクターたちの道中に伴走するような心持ちで脚本を書いていったのではないか。
社会的なランクで言えば明らかに上にいるはずの刑事2人が乗用車の低い座席から尾行を続け、5人組がワゴン車に乗っている時やホテルの部屋にいるときなど、常に彼らを見上げる位置関係に配したのも巧い。当初こそ乳児売買という不正を憎み犯行現場を取り押さえようと意気込むが、5人組の奇妙な絆に軽く嫉妬し、やがて羨望に変わり、彼らの心の内に近づきたいとさえ願う。常に社会的弱者に寄り添う是枝監督の視点を、疑似家族を見上げる刑事2人の構図が象徴している。
「万引き家族」に並び、深淵な響きを放つ秀作
映画を始めとするフィクションの面白いところは、例えばブローカーという違法な存在から家族のあり方を問える点だ。近年、海外製作を通じて国境に囚われない「家族の情景」を映し出そうとしているかのような是枝監督。本作は急な坂道や階段を登り尽くした先から物語が始まる。そこで我が子を手放す若き母親。セリフはなくとも、歩んだ道のりが重い胸のうちを覗かせる。ただし、ここからシリアスに振り切れるのかと思いきや、本作はソン・ガンホらが醸し出す絶妙なニュアンスで多様な味付けを加味。彼らを廃車寸前のワゴンに同乗させ、束の間の擬似家族の温もりを織り成していく。ふと目に飛び込むのは「傘」。私たちは誰かの傘になり得ているだろうか。はたまた、社会は、世の中は、人々の苦しみや悲しみの傘たりえているだろうか。絶え間なく注ぐ陽光、染み付いたものを洗い落とす水しぶき、それからふと聞こえてくる音楽が、人間ドラマに忘れえぬ陰影を刻む。
韓国を舞台に韓国ならではの問題を見出し、それを国籍を越えて関係する「人間の根源的な物語」として昇華させた作品。
日本では、育てられなくなった赤ちゃんを置く「赤ちゃんポスト」というものがありますが、韓国でも「ベイビー・ボックス」というものが存在しています。
しかも韓国は日本より利用件数が桁違いに多くなっている現実があります。
韓国では2012年の法改正により養子縁組がしにくくなっているのです。
そのため“仲介役”としてお金を稼ぐ(違法な)「ベイビー・ブローカー」の存在があり、本作ではそれを題材に、1人の赤ちゃんをめぐっての動向を描いています。
まず、それぞれの登場人物が自然にキチンと背景も含めて描かれているので、登場人物が活きていて物語の深みが増しています。
そして社会問題化している犯罪なので、警察との攻防にもなり物語に起伏を与えています。
このように、大きなテーマではあるのですが、「人の日常が根本にある」のでキチンと人間模様が丁寧に描かれ続けているのです。
本作はカンヌ国際映画祭で最優秀男優賞をソン・ガンホが「韓国人初受賞」しましたが、それも納得でした。単なる表層的な「ベイビー・ブローカー」として赤ちゃんの仲介をするのではなく、一人の人間として「活きた演技」をしていたからです。
2004年の「誰も知らない」で柳楽優弥がカンヌ国際映画祭で最優秀男優賞を「日本人初受賞」しましたが、あの時も主人公の少年に生命が宿っていました。
是枝裕和監督は「映像の中に生命を宿す」名手です。
本作の最大のテーマに「自分は生まれてきてよかったのか?」という問いかけに対する答えのようなものがあります。
「自分は生まれてきてよかったのか?」や「自分は生きていて意味があるのか?」というような根源的な疑問は、誰しもが漠然と抱えているものだと思います。
きっと見終わった後に「自分は生きていてもいいのかな」など、どこか前向きな気持ちになれるような優しさが詰まった作品に仕上がっています。
なお、「1ドル=100円」のように韓国のウォンについては「10ウォン=1円」というオーダー(桁数の指標)を頭に入れておくと便利です。
「赤ちゃんを売買する人」というタイトルは衝撃的でも、そこには地に足のついた深い人間模様があった
「万引き家族」の是枝裕和監督がオリジナル脚本で手がけた韓国映画。是枝監督は、韓国での撮影は日本とあまり変わらなかったと述べているように、言語は違っても邦画の香りが残る作品となっている。
本作は「パラサイト 半地下の家族」のソン・ガンホ主演。クリーニング店を営んでいるからか、上着やシャツなど着ているものに清潔感があったところに、過去作の多くの役柄のイメージから、いい意味でギャップがあった。
ただ、他では期待通りで、借金に追われている「どこか憎めないオジサン」であり、営むクリーニン店も今では珍しいくらい古い。足踏みミシンを難なく使いこなす姿、ボロ車の修理をしないまま堂々と乗り続ける風格は、ソン・ガンホならでは。
この先がどうなってしまうのかワクワクする展開となる。
映画は、ストーリーが重くなりがちな「赤ちゃんポスト」から始まるが、優しいロードムービーのように仕上がっており、その流れの中で、生きることと育てること、多様な存在価値の本質を前向きに提示している。
韓国映画特有のグロさや決定的な結論が緩和されているあたりは客層の意見が分かれる作品なのかもしれない。
ただ、子供の自然な姿を映し出す是枝監督の技法は満点!
2009年に是枝監督の「空気人形」で主演したペ・ドゥナは、相変わらず華奢で口数が少ないにも関わらず、表情や身振りで重要な役柄を演じているのでそのあたりも見所。
難しい問題
ブローカー主体の話かと思っていましたが、内容的には養子縁組や育児蜂起といった内容が主体でした。
題材的には、重い内容ですが、そういうふうに感じさせず、さらっと見れました。
ラストも上手くまとめた感じで、楽しめました。
流石に刑事といえど、現行犯で捕まえたいと思ってもあれはダメでしょう。
赤ちゃんポスト
2024年4月20日
映画 #ベイビー・ブローカー (2022年)鑑賞
#是枝裕和 監督、#ソン・ガンホ 主演
赤ちゃんポストに捨てられた赤ん坊の横流しを行っていた男たちが、我が子を手放した母親と一緒に養父母探しの旅に
#ペ・ドゥナ、#イ・ジュヨン、#IU、#キム・ソニョン と有名な方々が多数出演
是枝監督だったのか
一時結構話題になってたけど今更気になり見て見ました。
なんか既視感があると思ってたら万引き家族に少し似ている感じ、是枝監督の映画は面白いものもあるけどGOODENDかと言われたら違うんだよねえ
無難な落とし所で終わるのが残念ではある
話があまり緊迫感などないしタイトルほど内容にインパクトがないのはもったいない気がするな〜
こういう少し重いドラマにはハッピーエンドを求めてしまうからあの偽り家族での幸せな姿が見たかったけどさすがに難しいか
子供を中心に回ることの幸せ
みんな誰かの子供だった。
そして家族は子供を中心に回っている。
いや、回ることが理想。
本作に詰め込まれた風景にそんなことを考える。
「万引き家族」同様に寄せ集めの他人同士が、ひととき家族となる物語。
中心には子供が、中でも最強の赤ちゃんがいる。
囲うそれぞれが、刑事もブローカーも、
そんな赤ちゃんに重ね合わせるのは自身の人生で、
まだ物言わぬ赤子を通し乗り越えようとしてゆく様に見ごたえがあった。
親は子供に教わる、とかなんとかいうが、
この原風景は他人同士だからこそ鮮烈と浮かび上がって来る。
その先に広がる光景は、
理想を守り切ったからこそあるものではなかろうか。
守り切り、それぞれが子供を通し乗り越えたからこそあるものでは。
ウジンくんの素なのか、演技なのかわらないところがとにかく可愛いかった!
ソンガンホ氏の最後、猟奇っぷりがハマリ過ぎ。
韓国へ行きたくなるようなロードムービー仕立ても良かった。
暗い内容だが、コミカルに描かれているシーンもあり、そこまで暗く感じ...
暗い内容だが、コミカルに描かれているシーンもあり、そこまで暗く感じなかった印象。何か残るかなといえば、そんなに残らなかったな。
淡い色彩、淡い演技
美点の沢山ある映画だ。
エピソードは沢山積み重なってるが、エピソードのピークには辿り着かない。
かわされたり、説明が少なかったり。
俳優の体温の低い演技もいい。
エレガントと言ってもいい。
万引き家族の韓国版っぽい
自分も捨てられて施設で育ったのに、なぜブローカーをやってるんだい…?設定が緩い気が…。
洗車中で窓開けてみんなでキャッキャ笑って関係が深まるってのも全く共感できない。わたしだったらブチ切れそう。
韓国映画って共感できなくても、韓国映画だしな!で割り切れるけど、是枝節がバシバシだから日本映画っぽく感じて悶々とする結果に…
明暗対比の鋭い実験的人間ドラマ。
内容は、舞台は現代韓国貧しいながらも犯罪で生計を立てる社会の低階級にいる人々が、ある新生児売買を巡り犯罪逃避行の中で血の繋がりのない家族について其々が自省する映画。印象的な台詞『何でだろう何も見えない方が凄く怖い…』観覧車で母親として最後の本心を語る場面。舞台上の景色で薄暗く雨模様の多い暗い映画ですが、しかし周囲が暗転(トンネル・部屋消灯)すると本心が語れ明るい場面になる。カタルシスの解放が上手く表現さらていて面白い。手で視覚を遮られ周りが明るく自分だけが暗くなると凄く怖くなるという台詞には心象を上手に表してるなと感じました。観覧車の内側の落書きが周りからの意見としての母親への周囲の見方というティストに繋がり物語で一番面白かった様に感じます。現代社会に潜む病巣の様な感じの問題提起は素晴らしい。印象的な場面は、最後の皆んなで撮った遊園地プリクラを大事に車の中で吊るす新生児売買コンビ年配の逃走中の男の人が、どうして出所した子供の母親を見つける事が出来たのか?全く描かれてなかったのでハッピーエンドが??になってしまった所です。其々の個人的な背景を細かく追ってるわりに肝心の物語進行がおざなりになり都合の良いオチになってしまった事が残念でした。印象的な演出は、半地下を思わせる様な坂の多い韓国のダウンタウンや雨を多様した演出です。キアロスクーロの様にあからさまに影を濃くした演出は実験的で面白かったです。光が強ければ影も濃い。『生まれて来てくれて、ありがとう…』誰にも望まれてないという実在が絶望感を増すよという主題が分かりやすく、それでいて深い言葉だと印象に残りました。でも、この撮影中新生児ウソン大きくなり過ぎたのが個人的に気になります。映画の撮影中どんどん大きくなるからしょうがないのでしょうが、子供を主役にする時は時間との勝負ですね。ハリーポッターやストレンジャーシングスも同じく難しさを感じてしまいました。
ドンスとスジン
ドンスとスジンの関係性が好き。
ドンスは自分の母親とスジンを重ね合わせている。
スジンのことを知ることで、自分の母親も何か理由があったのだと思うことができた。スジンを許すことで前に進むことができた。
あのラストはウソンにとって最良の結果だったのか。
彼がドンスくらいの年になった時、何を思うのか。
ウソンは幸せ
やはり振り回され、たらい回しになる赤ちゃんウソンがかわいそう!がまず思ったことだが、よく考えれば登場人物の中では確実にウソンが一番幸せだ。みんなから愛され、今後もたくさんの人に愛されながら育つのだろう。母親の判断は正しかったと言える。児童養護施設出身者も、施設にいる子どもも、前向きに生きている。血の繋がりがあるだけで家族でいるような人よりも、幸せだと思ってしまう。家族の在り方。うーん、是枝さん、さすがです。
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