「みんなひとりぼっち、でも眼差しや手の温もりはある」ベイビー・ブローカー redirさんの映画レビュー(感想・評価)
みんなひとりぼっち、でも眼差しや手の温もりはある
たくさんの擬似家族が提示される。
赤ちゃんを売ろうとオンボロなバンで赤ちゃんを売ろうとする仲間となってしまった男二人と赤ちゃんの母親と施設の子と赤ちゃんの五人組。
母親である女が元々世話になっていた、というか拠点にしていた売春組織になってる家も行き場のない少女たちが共同生活しているし、男の一人も捨て子も施設の子と同じ出身で母親がいないが施設では皆兄弟姉妹としては育てられている。ベビーポストがある病院でも捨てられた子たちが暮らしていて制度的、制度外様々な家族的共同体があり!それとは別に執拗に赤ちゃん売買の現場を押さえようと追いかけ回す刑事夫婦、離婚しているが子どもがいるソンガンホ演じる男の家族など、いわゆるほんとの普通の家族関係も提示される。そして映画の終わりにはまだ新たな擬似家族的共同体ができて天晴れ。みんなひとりぼっち。そして社会は一人ひとりが様々な理由で寄り集まっているもの。
射精責任という本がちょうど日本でも出版されたところだが、やれやれほんとに、捨てられた子ども、もと子どもは母親を探し、求めるのだ。そして捨てられたり一時的にも育てられないと判断される子を産むのは女性であり捨てようが育てようがとにかく妊娠してできた子どもの責任をとるのは女性だけ。
ソンガンホ氏は、クリーニング屋で丁寧にアイロンかけたり老眼鏡みたいなのをかけて繕い物をしたり。母親の着ている服のボタンを付け直してあげる。大切に、おそらく親からというべきだろうけど、大切に育てられなかった人にはボタンを付け直してくれるなんてぐっとくるだろう。みんなが赤ちゃんとの5人の生活擬似家族でやってくことを心のどこかで追い求める様々なシーン
刑事組は、ジェンダー問題に心とらわれ上司や男メインの他の課をやり込めたい女キャリアの過程で何らかの子どもを持たない、持てない判断をしたようだし、もう一人は自分の仕事はもっと福祉寄りではないかと疑義も持ちつつバンを赤ちゃんをブローカーを追い求める。
いろんなモチーフがあり、いろんな社会問題、構造の歪さや不全がユーモアや戸惑い、共感を伴い、提示される。
生まれてきてありがとう、と母親ソヨンが他の四人にいうところはよくわからなくて、生まれてきてありがとうの言葉の意味もわからないというが共感ないけど、ここで、ああこれ是枝監督作品だったかと思い至る。
でもね、万引き家族よりずっとずっと共感できるし入り込めるしこんなふうに家族が形成されたら、、と思う。肯定感しかない。
施設も他の家族も、全て肯定する。そこに希望を感じる。