「ソン・ガンホ対ぺ・ドュナ」ベイビー・ブローカー ジョーさんの映画レビュー(感想・評価)
ソン・ガンホ対ぺ・ドュナ
「壊れて傷んでも、その中にはしばしば美しい瞬間がある。それをすくい上げたかった」
是枝監督が『万引き家族』で言っていたこと。本作も同じ匂いがする。
美しい瞬間を紡ぎだすもの。
ソン・ガンホの不器用な優しさ。
彼の相棒が、産みの母親に言う「父親になってもいいよ」というひとこと。
一人一人に、「生まれてくれてありがとう」と伝える、疑似家族の男の子。
おむつ替えやボタン付けをするソン・ガンホの、照れ隠しの表情。
観る側は、暗黙の了解の役割分担に動揺を隠せなくなる。
当事者視線では善、第三者視線では悪。ふたつの世界が静かに生息する。
村上春樹は、「ユーモアと優しさをもってしか語れない絶望と暗転がある」と言っている。
是枝監督は、ベイビーブローカー側の疑似家族を通して、そこを見事に表現している。
対ソン・ガンホは、美しい瞬間は幻想にすぎない、と言いたげに彼らを追う女刑事役のぺ・ドュナ。
彼女の鋭利な刃のような現実感が、幻想との間で切なくも揺れ動く。
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