劇場公開日 2022年6月24日

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「福引き家族」ベイビー・ブローカー かなり悪いオヤジさんの映画レビュー(感想・評価)

4.0福引き家族

2022年12月10日
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“家族”である。是枝裕和の興味は最近これにつきるようだ。パルムドールに輝いた『万引き家族』に引き続き両親に捨てられた元子供たち&現子供たちが疑似家族を形成する物語から、是枝は一体何を描こうとしたのだろう。相模原市の施設で起きた障害者大量殺傷事件(2016年)に大層心を傷めた是枝は、この世界で“生まれてくる価値のない人間なんて果たしているのだろうか”という人類の根源的な問題にとりつかれているのである。

『万引き家族』の主人公役安藤サクラが警察の取り調べに対し「捨てたんじゃない拾ったんだよ」と答える印象的なシーンを覚えていらっしゃるだろうか。バアちゃん(樹木希林)の死体遺棄罪の是非を世に問うた場面である。暴力団組長の父親を殺害し逃亡するため邪魔になった赤ちゃんをポストに捨てた愛人の元売春婦ソヨン(イ・ジウン)。赤ちゃんの有償養子縁組先をサン・ヒョン(ソン・ガンホ)と一緒に探し回る元捨て子のドンス(カン・ドウォン)が似たようなことを口走る場面に注目したい。

なかなか縁組先が決まらずイラつくソヨンに対し、ドンスがこう言って慰めるのである。「捨てたんじゃない。(死んだパトロンが属していた暴力団から)守ろうとしたんじゃないのか」と。邪魔になったからといって我が子を捨てる母親なんているわけがない、そこにはソヨンのようにのっぴきならない事情がきっとあったにちがいない。是枝裕和はやはり、あくまでも人間の性善説を信じる日本人らしい映画監督なのである。

現行犯逮捕を目論むペ・ドゥナふんする女刑事の追跡を受けながら-、サン・ヒョン、ドンス、ソヨン、赤ちゃん、そしてドンスが働いている孤児院から脱走してきた子供まで加わって、サン・ヒョンの運転するオンボロワンボックスの中は、さながら疑似親子のように和気藹々とした雰囲気に満たされていく。その関係性は、血のつながつてない家族を描いた前々作と全く同じといってもよいだろう。後部ドアが壊れて開いたり閉まったりするこのワンボックス、母親の胎内(子宮)をイメージしていたのではないだろうか。

ようやく有望な売り先が見つかりホット一安心のメンバー一人一人に、(暗闇の中で)「生まれてきてくれてありがとう」と声をかけていくソヨンは、ワンボックスの子宮から生まれた赤ちゃんに語りかける聖母さながら。その警察と内緒で司法取引したソヨンのせいで、赤ちゃんの養子縁組は結局失敗に終わる。しかし、是枝はラストを『万引き家族』とは真逆のハッピーエンドに無理やりにでもねじ曲げるのである。『パラサイト』同様雲隠れしていたサン・ヒョンのみならず、疑似家族はさらに人数を増やし、売られようとした赤ちゃんの成長をあくまでも見届けようとするのである。

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かなり悪いオヤジ