「親子の愛の物語り」ギレルモ・デル・トロのピノッキオ 琥珀糖さんの映画レビュー(感想・評価)
親子の愛の物語り
ゼペットとピノッキオの愛が溢れる映画でした。
2人が本物の親子になるまでの、そして別れるまでの道のりを、ファンタジー色豊かに描いた、素敵で美しいストップモーションアニメーション映画です。
製作から完成までに13年かかった。
と、ギレルモ監督が語っていましたが、
メイキング「ピノッキオ手彫りの映画、その舞台裏」を観ると
成る程、気の遠くなるような手間と時間が掛かっています。
(このアニメーションは製作費が3千500万ドル)
この作品もNetflixの資本力で完成をみました。
私が以前観たピノッキオはテレビ映画だったのかもしれません。
ピノッキオは手のつけられないほどの悪戯っ子!!
ゼペットは手を焼いて振り回されて大騒動!!
そんな負のイメージを抱いていました。
ところがどうでしょう。
「ギレルモ・デル・トロのピノッキオ」は、
心根の優しい父親想いの〈ラブリーボーイ〉
いっぺんに好きになってしまいました。
ミュージカル・アニメ。
ピノッキオがカーニバルの団長ヴォルペ伯爵の策略に引っかかり
(子供ですもの)
借金を返すためにカーニバルに入るとき歌う、
「ミオパパ」
♪チャオ・パパ♪
♪ミオ・パパ♪
♪さよなら、またね♪
♪マイ・パパ♪
ピノッキオ役のグレゴリー・マンの歌声がチャーミングでとても心に沁みます。
ピノッキオやジュゼッペや他の出演者の歌う挿入歌は
とても美しく親しみやすいメロディラインです。
この映画の語り手であるクリケット(コオロギ)のセバスチャン。
ユアン・マクレガーが演じていますが、軽妙で実に多彩で多才なキャラクター。
ケイト・ブランシェットはスパッツァトゥーラという名前の市長の
ペットの猿の役です
ギレルモ監督のピノッキオなら、
「たとえ1本の鉛筆の役でも出たかった」と述べています。
猿ですのでキャガギャガの擬音だけで台詞はありません。
それでもどうしても出たかったそうです。
今までに観たストップモーションアニメの中でも、最高の出来栄え。
映像の美しさは極め付けだし、
夢溢れる異形のモンスターたちは美しくも怪しく楽しい造形です。
イタリアの町の美しさ。
教会の十字架に架けられたキリスト像。
何から何まで目を奪われます。
ピノッキオの顔そのものがなんとも愛らしい。
やはり松ぼっくりを連想しますね。
お約束の“嘘を吐くと鼻が伸びる“設定も健在で、
枝が伸びて茂り小さな葉をつける様は愉快です。
ピノキオといえば「星に願いを」が有名ですが、
その曲がかからないことを忘れているほど満足度が高い。
そして父親を一途に慕うピノッキオは愛らしく健気。
“木の人形なんか死んだカルロに較べたら、厄介な重荷“
とまでゼペットは言います。
深く傷つくピノッキオです・・・。
原作は19世紀の児童文学「ピノッキオの冒険」
とても反戦色が強く、学校に通う事の必要性を強く訴える内容とか。
今作の時代設定は第一次世界大戦下のイタリア。
ファシズム時代でムッソリーニが台頭。
ジュゼッペの息子カルロは戦闘機が機体を軽くするために
投下した爆弾で死んでしまいます。
ジュゼッペの悲しみは大きく、酒浸りで世捨て人。
酔っ払った勢いでカルロの形見の松ぼっくりが大きくなった松の木。
それをを切り倒して、木の人形を作って眠り込んでいると
〈木の精霊〉が魂を吹き込み名前をピノッキオと付けて、
言葉を話すようになる。
〈木の精霊〉を演じるのはティルダ・スウィントン。
後半では〈死の精霊〉の役割も果たして、ピノッキオを2度死から
蘇らせます。
青色にキラキラと輝きスフィンクスを思わせる姿は女神のようです。
声にエコーが掛かっているのと、低音で厳かに話すのでとても神秘的。
カーニバルに入ったピノッキオは、
ジュゼッペの借金を返す約束で、カーニバルのスターになり世界を巡業。
べニート・ムッソリーニの御前で芸を披露するものの、
「ムッソリーニをやり込める歌詞の歌」を歌い喝采を浴びる。
カーニバルの団長ヴォルペ伯爵をクリストフ・ヴァルツ。
ファシストの市長役は監督の盟友ロン・パールマン。
敵役で見応えあります。
今回はじめて知ったのですが、ギレルモ監督のお父様が誘拐され、多額の身代金を
要求されて、その身代金をジェームズ・キャメロン監督が一時的に肩代わりした・・
そんな経緯があったそうです。
そのときの辛い体験が、ピノッキオの父想いの優しさに繋がったのでしょうか?
〈死の精霊〉のおかげで2度も生き返るピノッキオ。
大きな魚の怪物に飲み込まれたゼペットも助かり、
瀕死のピノッキオも〈死の精霊=木の精霊〉に、
《本物の少年》として生きなさい、
とそう告げられますが、人間の少年になったという訳でもなさそう。
この辺の解釈はグレーゾーンだと思いました。
人は死ぬ
いつかは死ぬ。
限りない生を精一杯に生きなさいとのメッセージも。
コオロギのセバスチャンも死ぬ。
ピノッキオは世界周遊の旅に出る。
ピノッキオだっていつかは死ぬ。
エンドロールでコオロギのセバスチャンが、か細い足でステップを踏み
踊ります。
ユアン・マクレガーの歌声も軽やかで、ステップを踏むように伸びやかです。
観た後に愛に満たされるのはギレ・ルモ監督の優しさでしょうか。
至る所に優しさと愛がある。
感動せずにはいられませんでした。
琥珀糖さん
コメントへの返信を頂き有難うございます。
作り手それぞれの思い、製作陣が作品に注いだ情熱…琥珀糖さんのレビュー読ませて頂いて、作品に込められた多くの思いを改めて理解出来た気がします。